このニュースが流れたのは昨日です。私が知ったのはやはりSNS情報ですが・・・。
「Kiwi Pair」の愛称で知られるニュージーランド代表M2-、おなじみマレーとボンドのなしペア。その無敵のM2-のバウをずっと漕いできたエリック・マレー選手が、このほどボート競技を引退すると発表したのです。



無敵のM2-というのは、エリック・マレーは北京五輪後にハミッシュ・ボンドとM2-クルーを結成してから2009年~2016年の8年間、69戦無敗という記録を作ったからです。

8年連続で同一種目同一メンバーによる世界一という記録は、ボート競技において初めてなのではないでしょうか。五輪金メダル2個(ロンドン金、リオ金)、8年連続世界一、M2-(6'08"50)とM2+(6'33"26)の世界ベストタイム達成。そしてマレーに限って言えば、5000m、6000m、10000m、エルゴハーフマラソン(21097m)と、エルゴ世界レコードを樹立しています。6000mの18'16はクロアチアのシンコビッチ選手に破られてしまっていますが、2015年にマークした10000mの31'05は世界レコードです。2000mあたり6'13ペースで10000m漕いでしまうとんでもない有酸素能力。500mラップは実に1'33です。
まさにNZがボートの世界チャンピオンの国であるというイメージを作り上げ、イギリスのレッドグレーブやピンセントにも迫るような伝説的なM2-だったといっても言い過ぎではありませんし、M2-単体で見たら私はレッドグレーブとピンセント(バルセロナ金、アトランタ金)や、トムキンスとジンのオーストラリア(アテネ金。ジンは北京M2-も金)を圧倒できるような史上最強M2-だったと思います。

私のいまのブログでも開始初期の記事で特集させてもらい、その後もたびたびこのキウイペアの話題にふれましたので残念に思うと同時に感慨深い気持でいます。
このキウイペアは、Rowing NZの名声と地位を高め世界に冠たるチームを作り上げる上で先頭に立って走り続け同時にアピールし続けた旗手でもあったといえます。何せ彼らの存在が、日本ボートの大学生たちをもNZボート留学させてしまう一因にもなったといえるのではないかと思いますからね・・・。「NZはボートが強い国」ということが、日本ボート界でも今では共通認識になっていると思います。「海外でボートを漕ぎたい国の一つ」という選択肢にもなっているのでしょう。すでにロンドン五輪前からNZの躍進は始まっていましたが、2014年に始めた私のいまのブログもNZボートの強さと魅力をアピールし日本でも注目してもらう上で力になれたのでしょうか。

ご興味ある方は、さまざまな媒体でキウイペアの活躍を振り返ってみてください。

当ブログ記事でもこんな感じでご紹介をさせてもらってきました。
「脅威!NZL、オールブラックス」・・・ブログ開始5回目の記事で早くもNZ特集で注目させていただきました
「金メダリストたちの戦い」
「2014世界選手権レビュー①~オープン種目・前編」
「めざせ、エルゴベスト!2」
「2015世界選手権レビュー①~オープン種目・前編」
「リオオリンピック直前特集②~M2-、W2-、M4-」
「世界のコックス Part3」・・・NZのCOXのところで一部紹介しています

うーん、これまでかなりたくさんキウイペアの話題にふれてきましたね。




さて、このたび引退するエリック・マレー選手は1982年5月6日生。15歳になり高校に入り最初はラグビーをプレーしましたが夏のスポーツとしてたまたま選んだRowingで才能を発揮すると、以降は本格的にRowingをはじめていきます。U17M4Xで全国タイトルを手にし、2000年にはM8+メンバーとしてクロアチアの首都ザグレブで行われた世界ジュニア選手権に出場するもFinal Bで6着の12位。日本代表LM4Xが日本史上初めて世界選手権優勝した大会です。(オリンピックイヤーでは世界選手権と世界ジュニアは併催することが多い)


その後アテネ五輪M4-で22歳の若きストロークとして決勝に挑むも、前回の記事にも紹介したピンセント率いるレアンダークラブの4人で組んだM4-の前に8秒以上離されての5位。当時マレーはストサイで、同じストサイの2番にはマレーより4歳上のドライスデールが乗っていましたが中盤以降失速しライバルのイギリスとオーストラリアにはだいぶ離されてしまいました。のちに最強のM2-やM2+、M1Xとして3つの世界ベストタイムを作ることになる2人が、最初は五輪決勝の大舞台でうまくいかなかったのですね。


北京に向け、2006年には3歳年下で期待の若手ハミッシュ・ボンドが代表に加わります。翌年、ボンドはストローク、マレーは3番としてM4-のストロークペアを組み、キウイペアの原型となるようなM4-となりました。このストペアで、2007年世界選手権M4-ではあのアンドリュー・トリッグス・ホッジとピート・リードの乗るイギリスにも勝っての自身初の世界選手権優勝を果たし北京五輪には優勝候補の一角としてM4-に臨みますが、予想外にも決勝に進むことができませんでした。平均年齢24歳の若いクルーということもあったか、準決勝で激戦の組に入ってしまったこともあったのか。北京M4-準決勝では結果的に金銀銅を獲ることになるイギリス、オーストラリア、フランスの3強と当たり4着としてしまい決勝叶わず、Final Bに回り北京五輪M4-7位。M1Xに転向したドライスデールが銅メダルに輝いたのと対照的に、アテネより順位を落としてしまったのです。

ちなみに、北京M4-のBファイナルでNZと当たり11位だったイタリアM4-には、アレッシオ・サルトーリが乗っていました。サルトーリはシドニーM4X金、アテネM2X銅のトップスカラーでしたが北京に向けてはM4-で臨み、前年NZに次ぐ世界選手権準優勝しておりM4-金を狙ってきていましたが、五輪M4-本番はふるわず11位。その後M2Xに戻りロンドン五輪M2X銀を果たします。力があるのに、クルー編成や勝負の流れなど様々な要因で意外な惨敗を喫する似たような例です。
ボート競技は、本当にクルー編成や相性に左右されるところがあったり、オリンピック本番への仕上げの難しさ、シーズンごとの調子の浮き沈みなども絡んで、勝ったり負けたりがつきものの競技なのです。どんなに強いとみなされる選手でも、人間ですからコロッと惨敗するケースもあります。


しかしマレーは若き日のこの悔しさがあったからなのか、ボンドとともにその後一気に連勝街道を突き進むことになります。
NZが組織的にも本当に強くなる北京後のタイミングで、NZ首脳陣はおそらくエルゴ1、2を誇るマレーとボンドをM2-として結成し、そしてシドニーM1X金メダルのワデルを完全に凌ぐ力をつけたドライスデールはM1Xということで、まずは個人の能力を生かした代表クルー編成を行います。
この2クルーがNZ代表を牽引し世界ナンバーワンの優勝候補筆頭としてロンドン金メダルを果たすのですが、同時に彼らを追いかけて若手もどんどん強くなっていきます。続々とクルーが育ち、M2-とM1XだけでなくM2Xも金を獲ったのです。さらにLM2X銅、W2-銅と5個のメダルをロンドンで獲得し、イギリスの9個に次いでNZはメダル獲得2位という躍進を果たします。

その後も男子はLM4-、M8+が若いながらも一気に強くなり、女子ではW1X、W2X、LW2Xなど実際に世界一を果たすようなクルーが多数出てきてボート王国のイメージを作ったというわけです。
その後のキウイペアの活躍は、以前の記事にも書いたとおり、押しも押されぬ最強ペアとして後続クルーに水をあけ続けて世界一を積み重ねていったのです。

ちなみにロンドン金M2X(Sサリバン、Bコーエン)も調べてみたら面白く、2009年にはまだU23に出ていたのですが2010年地元NZのカラピロでの世界選手権でいきなりM2X優勝、これで自信をつけ2011年も連覇すると、ロンドンでも先ほど紹介したサルトーリのイタリアを破って金メダルに輝きます。ロンドンでは平均25歳と若いダブルでしたがさらに注目データはストロークのサリバンが178cm78kg、バウのコーエンも181cm83kgと、この体格でオープンのM2X金メダルに輝いているんですね。
彼らは翌2013年にはマレーよりずっと早く引退してしまっていたようでしたが、こうした事実には日本のオープン選手も活躍できるヒントがありそうです。


強いNZチーム誕生の裏には、キウイペアの存在というより確実にNZ強化体制やコーチスタッフの力と、資金や広報などまで含んだRowing NZ全体の組織作りが直接影響したと考えますが、マレーとボンドがこうした最強チームで常に主役を張り、NZの顔としてチームを引っ張ってきた功績というのがやはり大きかったと私は思います。
8年連続世界一、ボート競技での69戦無敗は伊達ではありません。この2人にしかできなかった偉大な記録であると思います。
そして、World Rowingサイトでも「TOP 10 ROWERS」の1位がマレー、2位がボンドですからね。シンコビッチ兄弟やイギリスM4-などをさしおいてトップ2にランクインされている世界最強漕手の2人なのです。(2017年5月1日現在)
世界ランク1位で8年間無敗記録と多くのエルゴ記録保持者の引退、陸上でいえばボルト選手が引退したらそれに匹敵するニュースのような扱いをしてもいいのではないでしょうか!(ボルトはまだ引退していませんよ、念のため!)




今回のマレー引退のニュース、このように報じられた記事も見つけました。
http://www.stuff.co.nz/sport/other-sports/92066932/olympic-rower-eric-murray-announces-retirement

マレーとボンドはいつまでもNZスポーツ界にとっての伝説であり続けるとか、NZの誇りだとか、多くのメッセージが寄せられているようです。やはり、引退に際してはこのように多くの人に惜しまれ、そして称えられる幕引きでありたいでしょうね。

それにしても、いかつい顔立ち(?)とは裏腹に、35歳の誕生日を目前にまだ34歳という若さでの引退です。まだまだ活躍できそうな年齢だと思いませんか?
私は個人的に、マレーとボンドがM8+のストロークペアになるなどしてさらなる活躍を期待していたのですが。膝の怪我もあったとはいえ大事ではなくまだじゅうぶん第一線でボートを漕げる状態だということですが、家族と過ごしたいといった理由が引退の要因のようであります。(オリンピック翌年の発表ですから、五輪が近づいてきて現役復帰を宣言しカムバックするケースもたまにあるとは思いますが)
残されたボンド選手は東京に向けどうするか。また新たなパートナーを得て新生キウイペアを結成するのか、はたまたM4-やM8+のエースになっていくのか、今後が興味深いところです。




リオ五輪翌年ということもあり、五輪は大目標であると同時に一つの節目でもあり多くの国や選手が世代交代を迎え、新チーム、新クルーを作るためにまた新しいチャレンジをしていきます。世界の動きがあり、そして日本の動きもある。
新しいシーズンがまた、はじまります。夏へ向けて、色んなレースがスタートしています。

スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://rowingcox.blog.fc2.com/tb.php/312-f4962345