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さて、今回はさらにCOX特集・番外編の第3弾、「世界のコックス Part3」といたしまして、世界トップで活躍するCOXたちをドーンと紹介します!
今回紹介するCOXは、やはりこのブログを読んでくださっている方なら何度も目にされたことがある選手たちです。あまり実績のないCOXを追いかけてもどうかと思いますので、World Rowingでもよく登場する方々を、キャリアや実績を中心に紹介しつつ各国の特色も紹介したり個性的なエピソードや魅力をお伝えできればいいですね!




1.Martin Sauer(Germany)
まずはこの人、ドイツ代表COXのマルティン・ザウアーです。
私的には、前回紹介したイギリスのフェラン・ヒルとこのドイツのマルティン・ザウアーが歴史上稀に見る2人のCOXライバル伝説、龍虎相討つ両者という印象です。イギリスM8+とドイツM8+との8年間にもわたる壮絶な死闘を繰り広げ名勝負を演出した同士、常に僅差で世界1、2を争いエイトの覇権を懸けていた。その中にこのCOXによるライバル争いがあったと。お互いに、歴史を作った好敵手だったといえるのではないかと思っています。
まだまだ、東京五輪までこの2強、そしてこのCOXがライバル争いを続けるところを見てみたい気持もありますが、イギリスとドイツの世代交代は果たして大胆に行われるのかどうか、このへんのチーム再編も注目ですね。
Ruder-EM_2016_75 Wikipediaより
Wikipediaより画像転載

マルティン・ザウアーのパーソナルデータは、169cm55kg、1982年12月17日生の現在34歳です。
ドイツの最古にして最大のローイングクラブ、ベルリン・ローイングクラブ(BRC、Berliner Ruder-Club)で12歳のときボートを始めたようで、素晴らしい才能を示して以来現在もここに所属しています。ヨーロッパではボートは地域クラブが主体であり、大学や高校のスポーツのイメージが強いアメリカ、イギリス、日本などとはだいぶ異なっていますよね。ドイツの首都ベルリンもたいへん緑と水が豊かで、市内にはいたるところに川と運河があり、市の南西部にある湖、ヴァンゼー(ヴァン湖)をホームにしています。


ザウアーはルール大学ボーフムで法学の勉強を続けていました。ルール地方はドイツの西端で工業と経済の中心といってもよく、エッセン、ドルトムント、ボーフムなどの工業都市があります。ライン川沿いのルール工業地帯、中学社会でやりましたよね。さらに南にデュッセルドルフ、ケルンなどがあり一千万人の大都市圏を形成していますが、ザウアーの所属するクラブがある首都ベルリンは反対側のドイツ東端です。東のベルリンのクラブに所属するザウアーが、500km近く離れた西のボーフムの大学に通うのはなぜでしょうか。むしろルール地方からは国内のベルリンよりも、隣国のオランダやベルギーのほうが距離的にずっと近くです。
ブログ用 ドイツ地図
ケルンは1998年世界選手権が行われ、ミュンヘンは2007年世界選手権が行われたりワールドカップがよく開催されるなど、ドイツはボートどころが多い

なぜなら、ドイツのボートナショナルトレーニングセンターがドルトムントのエムス運河に位置しているからなんだそうですね。そのため、多くの漕手がドルトムントで練習しながら近隣のルール地方の大学で学ぶらしいのです。ですから、日本でいえばちょうど瀬田のクラブで育ち在籍している選手が、年間のほとんど都内の大学に通い戸田で代表合宿をしているというイメージだと思います。リオのドイツM8+のうち4人くらいはそのような学生で、他にも代表選手は学生がおりそれぞれ代表でのハードトレーニングを続けながらも、医学、法学、土木、機械工学、生産工学、心理学、経済学など専門の勉強をしているとのことです。リオ金メダルのドイツW4X、ストロークのリザ・シュミドラ(25歳)はジャーナリズムを、2番のカリーナ・ベーア(26歳)はボーフムの医学生としてこちらも勉強しているようです。

リオで33歳になっていたザウアーはこの中で年長者のほうでしたが、弁護士をめざして学生を続けていました。しかし、こうした状況であれば年齢的にもしかしたらリオを機にボートを引退する可能性がありますね。



ザウアーの、世界選手権を含むこの8年間での素晴らしい代表キャリアはこちらです。
2009 世界選手権M8+優勝
2010 世界選手権M8+優勝
2011 世界選手権M8+優勝
2012 ロンドン五輪M8+ 金
2013 世界選手権M8+準優勝
2014 世界選手権M8+準優勝
2015 世界選手権M8+準優勝
2016 リオ五輪M8+ 銀

北京五輪以降にドイツM8+の代表COXのバトンを受け継いだザウアー、ロンドン五輪までに北京五輪最下位からの4年連続世界一を成し遂げ、ものすごい下剋上を果たしたのです。その後はリオ五輪まで今度はライバル・イギリスに対し僅差で4年連続2位に泣くのですが、常に世界トップ争いの主役に君臨し続けたといってもいいでしょう。
Kristof_Wilke_Martin_Sauer_Olympics_Day_5_Djpn0TtQCl2l ロンドンM8+金 ZIMBIOより
ロンドン五輪ドイツM8+金メダル ZIMBIOより画像転載

ドイツM8+のロンドンまでの経緯は、他の記事でも詳しくふれていますので参考にしてください。
以前の記事 「2014世界選手権レビュー②~オープン種目・後編」

他にも、2005年岐阜世界選手権M4+3位、2006年世界選手権M4+優勝、U23でも優勝2回、国内では年齢別で11回のドイツチャンピオンになっているなど、ザウアーはまさにドイツを代表するような名COXだと言える選手なのです。


9623 world rowingより
World Rowingより画像転載
World Rowingでのプロフィール写真がこんなお茶目な表情で載っているのはナゾなんですが(笑)、色々なインタビューを調べてみるとお茶目さとは程遠いような相当な理論家COXの一面が覗いて見えます。さすが、法律家の卵です。

「Steuermann(シュトイアーマン、ドイツ語で舵手のこと)は常にあらゆる状況下で自己と艇をコントロールできていなければなりません。艇上でパニックになって早口や大声で話をしてはいけません。クルーのリズムに悪影響を与え、自動的に忙しくなってしまいます。これは絶対に避けるべきですね」
「レースではそれぞれプランの実行をしっかりコントロールし、常に艇を前進させます。トップスピードで艇の状況を保つ、そのためのオプションをしっかりと持っておくことが大切です」
「シュトイアーマン(COX)は、艇の動きを非常によく感じることができます。Rowingボートは、モーターボートのような一定速度ではありませんから、常に毎ストロークで速度が変化します。ドライブ中と、フォワード中。COXはこれを感じることができるのです」
「良いレースをしているときは、動きが非常に滑らかに感じます。速度のピークとボトムがあまり離れないのです。しかし悪い漕ぎでは艇の動きが乱暴に前後に投げ出される感じがあります」
「クルーのパワーを適切に使用するために、技術を改善し最良のリズムを作らなければいけません。COXは、レースを通じて、クルーをリードします。理にかなった動きを実現すれば、COXはスピードを爆発させるように促し、レースプランも確実に遂行する責任を果たしていかなければいけないのです」

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リオでのドイツM8+ ostsee-zeitung.deより画像転載

リオ五輪では、イギリスの圧倒的なパワーと団結の前にレースの流れを持っていかれてしまった形にはなりましたが、ドイツM8+の緻密で勝負強く、テクニカルな漕ぎというものは8年間世界トップのRowingを表現し続けてくれたと言えますね。



では、かっこいい理論派COXザウアーの映像をいくつかどうぞ。
「Die Ruderer über Martin Sauer, Steuermann des Deutschlandachters(ボート選手マルティン・ザウアー、ドイツM8+の舵手)」
代表エイトの漕手たちが、舵手ザウアーを評している動画です。


「Der Deutschlandachter - das Boot - erklärt von Steuermann Martin Sauer(ドイツM8+、COXマルティン・ザウアーによるボートの説明)」
ザウアーがエイトの艇の構造を説明していきます。とりあえず真面目そうなCOXという雰囲気は伝わるのでは!


それから、ドイツといえばEmpacher。日本でもおなじみ、エンパッハの艇ですね。
フライとかエッセンとか、アイン・ツヴァイ・ドライとか、ドイツと日本ボート文化や用語は馴染みが深いのです!
エンパの工場、紹介VTRみたいなのを見つけましたので、日本のチームで乗っているエンパッハ社製の艇が造られた過程に想いを馳せ、こんな映像も見てみてください。
「エンパッハ ボート造船所」
機会があったら世界の造艇メーカー特集なんかもやってみたいですが、そんなに詳しくないのでよかったら誰かやってください!(笑)

英語圏とはまた少し異なる独自のボート文化と歴史をもち、「ドイツの漕ぎ」「ドイツのトレーニングプログラム」「ドイツの造艇技術」など独自性をもって世界トップを今も争い続けているドイツボート。人も技術も堅実で常に理と哲学をもって世界をリードするドイツという国に、関心のある方はぜひふれてみてはいかがでしょうか。







2.Caleb Shepherd(New Zealand)
続きまして、ニュージーランド代表COXのカレブ・シェパードを紹介しましょう。
キーウィ・エイト(Kiwi 8)を率いる23歳の若き司令塔。しかし、2年以上前からあごに髭をたくわえておりヒゲモジャがトレードマークのユニークな老け顔COX(?)です。
SHEPHERD_Caleb_2014 waikato ac nzより
waikato.ac.nzより画像転載
以前の記事では、かなりこのNZのM8+にこのブログでも期待を寄せていましたが、結局イギリスとドイツの2強の壁は崩せずリオでは決勝6位とまだ上位争いするには至りませんでした。しかしこのM8+、シェパードを含め23歳前後のたいへん若いクルーでした。27歳前後とピークを迎える東京では間違いなく金メダル候補の1つに上がって来るのではないかと私は予感しています。

以前の記事 「2015世界選手権レビュー②~オープン種目・後編」


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waikato-timesより画像転載
数年前の写真。ヒゲがないときのシェパードは、爽やかイケメンCOXですね。
彼のプロフィールは、168cm53kg、1993年6月29日生の23歳。NZ第4の都市ハミルトンで生まれ育ち、ハミルトンボーイズハイスクールで13歳のときRowingを始めました。シェパードはNZ先住民マオリ族の子孫であり、あのハカの民族舞踊でも有名ですよね。NZにはマオリの血を引く人は50万人以上もいるそうで、国民の15%ほどにあたります。彼はまた、Rowingのキャリアののちにはジャーナリストをめざして目下勉強中とのことです。そして、このハミルトン市はNZ北島のワイカト地方(Waikato)にあり、シェパードはワイカト・ローイングクラブに所属しています。



NZのボート事情を申し上げますと、Rowing NZには4つの地域パフォーマンスセンター(RPC=Regional Performance Centres)があり、スタッフを雇って4つのRPCを日々運営しています。ここのところに、NZの近年の躍進の秘密が隠されているようです。
NZ Rowing Performance Center
ニュージーランド、4つのRPC
・オークランド(NZ最大の都市、小型船舶の多い港湾都市。北島の北端)
・ワイカト(ハミルトンはNZ第4の都市、北島の中西部。2010世界選手権が行われたカラピロ湖がある)
・ウェリントン(NZの首都であり第2の都市、北島の南端)
・オタゴ(NZ第5の都市ダニーデンなどがある、南島の地方)

オタゴといえば、ボート情報に詳しい大学ボート選手の皆さんは、留学制度を利用して短期のRowingと語学留学に多くの日本人学生アスリートがオタゴ大学に行ったということでもご存じなのではないかと思います。

例えば、かの有名なキウイペアは、エリック・マレーは強豪高校出身ではありませんでしたが、オークランドやワイカトのローイングクラブに所属し、ロンドンからリオまではワイカト地方のケンブリッジ市に住んでワイカトをホームにしていたそうです。また、ハミッシュ・ボンドはオタゴ地方ダニーデン市に生まれオタゴ男子高校でボートを始めており、このオタゴにあるノースエンドローイングクラブ所属ですが、やはりトレーニングの関係でマレーと同じワイカトのケンブリッジに家を持っています。

これら4つの地域におけるRPC(地域パフォーマンスセンター)には目標があります。
1.プレ・エリートの才能、特に次のオリンピックでニュージーランドを代表するアスリートを育成する
2.12カ月間、毎年の個人アスリート開発プログラムを提供する
3.漕手とコーチを目指す明確なハイパフォーマンスのための進路やプログラムを提供する
4.RPC水域内の地域協会とコーチやアスリートの地域の開発を支援する
5.教育/キャリアパスの促進を可能にし、機関内の主要アスリートのモニタリング/サポートを可能にするために、高等教育機関をローイングのスポーツに関連付けること


各地域に、アスリートやコーチの才能は分散しているので、開発機関・育成機関を全国主要4か所に設置して、才能を発掘し育てたことで、NZのような450万人という限られた人口の国でも、世界を代表するような多くのタレントが育ち強力なNZ代表チームを形成していったわけです。また、個人的に注目なのは、5番の高等教育機関との連携です。これは教育機関にもメリットがあるし、アスリートも選手キャリア、人生でのキャリア双方で支援を受けられ勉強もできるということで、クラブ型のヨーロッパだけではなく、アメリカやイギリスのスクール型ローイング文化にも近い方針をとれますよね。RPCのメンバーになることで、奨学金制度も充実しています。日本はどちらかというとこういったアメリカやイギリス、NZのような、教育機関とRowingの関わりを強める方針のほうが向いていると思われます。

才能を遺憾なく引き出し育て、世界で活躍するためには、優れたシステムや環境の整備、そして理念や方針が欠かせないということではないでしょうか。ですから、NZローイングの世界的な席巻は、まさにこうしたシステムや戦略の構築がすべてだったと言えます。
その上で、NZは素晴らしいコーチ陣と運営スタッフが私は世界一だと思っているので、イギリスやドイツやアメリカ女子もそうですが、指導陣や強化体制における頭脳とチームワークはスポーツやオリンピックでの成功において最重要項目だと申し上げたいと思います。しかし、競技をするのは選手ですから、タレントの発掘と育成においても、チームや指導者や仲間やライバルとの奇跡的な化学反応を何度も繰り返していく日々が重要であることは言うまでもありません。つまり、やはり人が重要であるということですね。
NZの色々な強さの秘密が、Rowing NZに載っていますので、興味ある方はNZだけでなく世界のRowingを研究していただければと思います。



さて、シェパード個人についてももう少しふれなくてはいけませんね!
今のところ、シェパードのおもな獲得世界タイトルは
2013 U23世界選手権M8+優勝
2014 U23世界選手権M8+優勝
2014 世界選手権M2+優勝

ということで、五輪でのメダルはまだまだ先ですが、彼の名を一躍有名にしたのはやはり2014世界選手権、マレーとボンドのキウイペアがM2-とM2+のダブルワークを敢行した際にCOXとして選ばれワールドベストタイム6'33"26を出したM2+レースですね。
World RowingサイトのRacing Videosの検索で2014と打って検索すればこの圧巻のレースが見れますので、ぜひどうぞ。
eight_col_Hamish_Bond__cox_Caleb_Shepherd_and_Eric_Murray_with_gold_at_WRCs_Amsterdam_2014_1610 radionz co nz
radionz.co.nzより画像転載



キウイペアとのM2+でワールドクラスの、それもRowing史上に残るような歴史的な艇速を体感したシェパード。COXとしてますますレベルアップして、これからは自身が主役として歴史を作る側になって黒い軍団を世界最強に育てていってほしいものですね!
1972年ミュンヘン五輪で初めてにして唯一のM8+金メダルを獲得し、1982年世界選手権M8+優勝以来世界一から遠ざかっているNZM8+。東京では48年ぶりの五輪M8+金メダルに挑んでいきます。
荒々しくも逞しく、そして見かけとは裏腹に緻密で戦略的な頭脳の集団、オールブラックスNZのKiwi 8。3年半後の東京の海の森に来襲し、黒船に乗った黒い海賊が9つの黄金の財宝を手に入れ、歓喜の雄叫びを上げるのでしょうか。
1471100537193 marlborough-expressより
marlborough-expressより画像転載







今回はそこまでCOXのパーソナリティに焦点をあてず、各国のボート事情を紹介するイメージで記事を書いてみましたがいかがだったでしょうか。一度、世界各国のボート情報を国ごとに見ていきボート文化の多様性を楽しむ企画もしたいものですが、今回のさらっとした紹介でも何となくドイツとNZのイメージは伝わったのではないかと思います。

ボートというスポーツを通じて、世界タイトルだけでなく、素晴らしい人材を育てるドイツとNZという国。世界に通じ、多くの独自性の魅力を伝えてくれ、そしてボートという共通言語が、ボートのまた独自言語を多く派生させ多様性を生み出す。


世界一をめざす競争の中で、ボートによってお互いの心を通わせ自らの身体と心を育てる。そして、何より海外のボートマンを、他者を知ることで、他人を理解し同じ競技仲間やライバルとしてよい影響を与え合う。やはり知ることは、自身が社会性をもち成長する上で、とても大事なことだと思います。
そんな世界のRowingに刺激を受けて、誇りあるチーム作りを、日本でももっと進めていきたいものですね!

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