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コックス技術論の再掲載シリーズ、いかがだったでしょうか。
決して手抜きしているわけではありませんよ!COXやボートについて考える機会を持っていただくために再掲載していました。とはいえ、更新自体が今はたいへんなので更新数を稼ぐ意図もありましたし、完全に自動更新にしていましたが。

「コックス技術論⑳ 世界のコックス」では、ロンドン五輪で引退してしまった選手の紹介になってしまっておりやや古い印象を与えてしまったので、今回は第2弾としまして、「世界のコックス Part2」をお届けいたします。
今回は、記念すべきブログ300回目の記事のようです。再掲載も含めての回数ですが(苦笑)、ちゃんと新作での更新で節目の記事を書くことにいたしましょう。

COXの皆さんは世界トップレベルや日本トップレベルのCOXのプレーや技術を学び、参考にしてCOX技術を伸ばしていただけるとよいのではないかと思います。しかし何より、トップアスリートとしての姿勢に憧れることも大事かもしれません。それから、やはり活躍している選手は格好いいですよね!




1.Phelan Hill(Great Britain)
まず紹介するのは、このブログでもおなじみイギリス代表COXのフェラン・ヒルです。
リオ五輪では念願のM8+金メダルを獲得し、GBエイトを見事16年ぶりの五輪チャンピオンに導きました。
Phelan-Hill-5 British Rowingより
British Rowingより画像転載

パーソナルデータは、175cm55kg、1979年7月21日生。現在37歳、歴戦かつベテランの域に達したキャリアの持ち主ですが、見た目は若々しく愛嬌のあるような喋り方などいかにもCOXキャラだといった印象の親しみやすそうな人物ですね。

2012年 ロンドン五輪M8+ 銅
2016年 リオ五輪M8+ 金
長年実績豊富なイメージもありますが、五輪では意外にも獲得メダルは2個。しかし銅と金ということで素晴らしいオリンピアンです。宿敵ドイツと、そして以前からの強国カナダとの長き争いを続けてきてのリオ金メダルが燦然と輝きます。

過去記事にも載せていますが、フェラン・ヒルがボートの道を歩むようになったのは16歳の時です。地元のベッドフォードスクールで友達に頼まれてCOXを始めたのがボートに関わるきっかけだったそうです。学校と地元のローイングクラブの両方をかけもちしてCOXを楽しんでいましたが、その後25歳のときロンドンRCで本格的に参加します。そして2007年28歳になるときに代表選出されて、アムステルダムで行われたワールドカップ第2戦でいきなりM8+優勝。北京での代表になることはできませんでしたが、その後8年間にわたりイギリスM8+を率いるCOXとなり、すっかり代表のイメージが浸透しましたね。
この28歳のときにレアンダークラブに在籍し、イギリス財務省のシニア政策アドバイザーを務めるかたわら、Rowingのキャリアを積んできたということです。
Phelan-Hill-Media-Shirt British Rowingより
British Rowingより画像転載



ここでイギリスM8+の足跡を見てみましょう。
2000年シドニー五輪で、1912年ストックホルム以来実に88年ぶりの五輪M8+金メダルを果たしたイギリスM8+。しかし4年後アテネでは振るわずピンセント率いるM4-が五輪2連覇の偉業を果たす裏で、M8+は9か国中9位という屈辱を味わいます。実際、アテネの頃のイギリスはM4-以外は男子Final A進出がなく、女子もW2-とW4Xが何とかメダルを獲りましたが今のような世界一の代表チームではなくレッドグレーブやピンセントの遺産が残っているという数種目だけが強いという国でした。それがロンドン五輪に向けた強化を国策として一気に進め、ボートにおいて強化のための重点競技に位置付けられたことにより資金と人的投資がなされ一気にGBチームが代表全体として強くなっていったのです。

Sマーク・ハンター、Bザック・パーチェスの北京金LM2Xや、アンドリュー・トリッグス・ホッジとピート・リードの新ストロークペアで鮮やかに五輪3連覇を達成した北京金M4-など、続々とスターが誕生する中、M8+も優勝のカナダにあと1/3艇身と迫る銀メダルを北京で獲得します。

2005~2008年までイギリスM8+主戦COXだった2歳年上のエイサー・ネザーコットの後を継ぎ、正式に代表COXの座を受け継いだフェラン・ヒル。2009年から正舵手として世界選手権に本格挑戦していきます。地元ロンドンでの世界制覇をめざすGBエイトの前に立ちはだかったのが、やはり北京7か国中最下位に敗れた屈辱から一気に強化して世代交代を進めてきたドイツM8+でした。このように、今でこそ2強のイメージを作り上げてきたイギリスとドイツ、お互い五輪最下位からのリスタートだったという共通項があるというのは興味深い事実ですよね。
2010年世界選手権準優勝、2011年世界選手権準優勝とドイツの前に2位が続き、2012年ロンドン本番ではドイツはおろかラストスパートで急襲してきたカナダにも差され銅メダルとなり地元五輪優勝の夢を破られてしまいます。

しかし、ここからリオまでのサクセスストーリーが始まるのです。リオで前人未到の五輪4連覇を果たしたM4-クルーから、トリッグス・ホッジ、リード、そしてアレックス・グレゴリーをM8+に乗せ、オリンピック翌年の2013年忠州世界選手権ではいきなり全開モード、ずっと負け続けていた宿敵ドイツに対し僅か0.5秒差でしたが優勝を果たしました。このクルーはリオ金M8+とリオ金M4-の原型となっており、ここでの最初の勝利が大きかったと思うのです。
2014、2015と少しずつメンバーを入れ替えながらもイギリススイープチーム全体としても向上し、特にM8+は宿敵ドイツに対しほんとうに僅差で接戦をものにして優勝を続けます。
そして2016リオ本番。レースでは序盤から地力を発揮し積極果敢に攻めたGBエイトが、1000m地点では早くも1艇身近くものリードをとり、強さを見せつけた理想的な展開で優勝を果たしたのです。最後はやはりドイツにやや詰められますが、これまでの僅差が嘘のような、イギリスにとって会心のレース展開でした。

フェラン・ヒルはリオ五輪レース後のインタビューで言います。
「2016シーズンのスタートはあまりうまくはいきませんでした。欧州選手権(3位)やワールドカップ(第2戦4位、第3戦2位)では問題が混在していました」
「リオ決勝、レースのポイントでは若干の懸念がありました。しかし、パフォーマンスとしては完全にプラン通りに発揮できました。1000m地点でのリードは予想以上でしたが、私たちはドイツが第3クォーターでいつもアタックしてくることを知っていたので、スクリュー回転を少し強めるように頼んだだけで(水中に気合いをつけた)、リードと優位性を保ってフィニッシュラインを越えることができました」

リオ五輪M8+決勝の動画



ヒルにとって忘れられないのが、2000年シドニー五輪でのイギリスM8+です。先ほども言いましたが、88年ぶりとなるイギリスのM8+金メダル。21歳のときレスター大学で法学を学んでいた学生のヒルは、この勝利を見て熱狂的にテレビに夢中になったといいます。そして優勝エイトのCOX、ヒルと3学年しか違わない当時23歳のロウリー・ダグラス(1977年早生まれ、私と同い年!)に魅せられ、五輪優勝を夢見ました。
法学を志しつつ法律家としてのキャリアを歩みながらも25歳でロンドンRCで本格的にローイングの道もめざし、さらには財務省の上級顧問の職にありながらも代表COXの座にあり、ロンドンまでは特に仕事との両立は困難を極めたそうです。
リオへの挑戦がはじまったとき、ヒルはローイングの活動に専念することを決意しました。世界最高とも言えるローイングクラブであるレアンダークラブに2007年から所属していましたが素晴らしいクラブのバックアップもあってローイングチームでのキャリアを優先させ、英国からスポーツくじの資金提供も受けることができていたそうです。完全にかけもちだったロンドン五輪までの時期とは違い、明らかに良い仕事が水上でできるようになったとヒルは言います。


Phelan-Hill---credit-Peter-Spurrier-Intersport-Images bedfordschool org ukより
bedfordschool.org.ukより画像転載

「シーズン最初は課題が多かった。しかし、リオではすべてが完璧でした。私たちがずっと夢見てきたものが生きて、オリンピック金メダルを勝ちとったのです」
「私は2000年シドニーのCOXロウリー・ダグラスの五輪金メダルを見て本当に素晴らしいと感じました。そして私にとって2回目となる五輪に出て、イギリス代表として、五輪金をとることができて、スポーツの頂点に立つことができました。それは本当にファンタスティックで、みんなの夢の実現でもあったのです」


21歳でオリンピックチャンピオンに憧れ、25歳で本格的にローイングの道も選び、仕事とたいへんな両立をしながらも28歳代表デビュー、そして37歳でその夢であった五輪チャンピオンを実現する。フェラン・ヒルは21歳のときに憧れたロウリー・ダグラスと同じ金メダリストのCOXに、16年かけてなることができたのです。
一見エリートに見えますがたいへん遅咲きのストーリーでもあり、ベテラン選手を激励し鼓舞してくれるような彼のライフヒストリーです。
あきらめずに夢を追いかける、最初に感じた憧れを何年もかけて追い続け困難な現実の中で失敗を繰り返しながらも最善の選択を求め自分の意志で夢の実現に邁進する。
その中には、周囲の支援、環境の整備、資金提供やクラブの力など外的要因も大きなものが背景にあるはずですが、1人の意志が未来を変えてきて、夢を現実にしたといえるのではないでしょうか。
世界のボートマンは、最初に競技をはじめた経緯を知るにつれ、私たちと中身は何も変わらないんだなということに気づかせてくれます。






2.Katelin Snyder(USA)
さて、次はやはりこの方、強いアメリカW8+のスピリッツを見事に受け継いだ女子COX、ケイトリン・スナイダーです。
こちらも、このブログで何度も紹介しており、もうおなじみの選手ですね。
0826MonPM002-01 katelin Snyder row2kより
row2k.comより画像掲載

スナイダーはロンドン五輪では先輩COXのメアリー・ホイップルがいたために出漕できませんでしたが、リオまでの4年間、世界最強アメリカW8+の主戦COXとして舵を引き続け、世界一のCOXとしての座を不動のものにしました。
この4年、アメリカ代表として素晴らしいキャリアを築いてきたのです。
2016年 リオ五輪M8+ 金

はじめての五輪で金メダルもすごいですが、世界選手権で見ると
2009 世界選手権W8+優勝
これはホイップルが五輪翌年に大学に戻り修士課程をとりたいこともあっての不在を埋めるシーズンでしたが、このとき22歳になったばかりのスナイダーは初めて出漕した世界選手権で見事優勝を果たしています。
そして、
2013 世界選手権W8+優勝
2014 世界選手権W8+優勝
2015 世界選手権W8+優勝
ということで、2016リオ五輪を含めて現在4年連続世界一を成し遂げているのです。
それどころか実はアメリカW8+はもう長年世界一を守り続けていて、世界選手権と五輪に限って言えば、2006年からずっと世界を制し続けており、11年連続世界一を果たしたものすごいエイトなのです。そのうちの6回がホイップル、5回がスナイダーのCOXによるものだったということになります。実はこの2人は出身大学も同じで、年齢は7つ離れていますがワシントン大学の先輩後輩の関係でもあります。

os-katelin-snyder daily caller comより
daily caller.comより 画像転載

彼女のパーソナルデータは、162cm50kg。1987年8月16日生で、現在29歳ですね。
スナイダーはニューハンプシャー州で生まれミシガン州の大都市デトロイトで育ちますが、Rowingに出会いCOXを始めたのはその後移住したフロリダ州ウィンターパーク高校からだったようです。そしてボートの名門ワシントン大学(ワシントン州シアトル)に進み本格的にRowingへの道を歩み始めるのです。ワシントン大学「Huskies」(ハスキーズ、ワシントン大学スポーツクラブの愛称)では、何と男子エイトに乗りクルーをIRA選手権の2度の優勝に導くなど才能を遺憾なく発揮します。(最近のFISAルール変更案でも、世界選手権などでCOXの性別自由化が挙げられていましたが、アメリカではこの点先進的ですね)男子クルーを力強くリードできる、強気なコールがスナイダーの持ち味なのです。ワシントン大のカラハンコーチは「彼女は男子を指揮することができた。素晴らしく理路整然、そしてエネルギーに溢れている。男子漕手の尊敬を簡単に集めることができるんだ。彼女は勝つことにひたすら貪欲で、紛れもなく競争者だ」、とスナイダーを絶賛しています。
ちなみにIRA選手権とはIntercollegiate Rowing Association championshipsの略で、全米大学ボート選手権のこと、つまりアメリカのインカレです。1895年以来毎年行われている歴史ある大学選手権なんですね。



そして先ほど言ったように、大学最後の22歳の年に代表COXのチャンスを得たスナイダーは2009年世界選手権初出場にしてW8+優勝を果たすと、ロンドン五輪に向けては先輩ホイップルとの代表選考の争いとなっていきます。漕手の選考はいつも選手キャリアを左右し生き残りをかけたサバイバルなのですが、COXの選考もこれまた熾烈です。何しろ、COXは漕手のように数値ではっきりと優劣を示されることは難しいですから、ある意味残酷な部分があります。アメリカ女子エイトを世界最強クルーに育てた女子ヘッドコーチのトム・テアハール(Tom Terhaar)は、2010年に五輪に向けてのCOX選考で苦渋の決断を迫られます。ホイップルも言います。「COXの選択は常に最後なんです」
漕手8人の投票によって、結局選ばれたのはアテネ銀、北京金の実績をもつベテランのホイップルでした。
名将テアハールコーチは言います。「私たちは、両者が優れていることを知っていた。しかし、メアリー(ホイップル)を知っている世代は、彼女の乗る艇に絶大な自信と信頼があった。その上、メアリーはさらに成熟していた」

スナイダーは落ち込み、荒れました。五輪への夢を奪われ、さらにその2か月後に2歳下の弟をがんで亡くし、不幸が続いたといいます。
しかし、ロンドンでホイップルが引退することも考えられ、また自分の将来を熟考した結果、やはりRowingにこだわりたい、スポーツに携わる中で幅を広げたいと彼女は考え直しました。ロンドンまでの代表から離れた期間はコーチアシスタントを2年間続け、またスポーツについてしっかりと理解をするために勉強もしていきました。「スポーツを学ぶ上で最良の方法は、指導することなのだと気づきました」とスナイダーは言っています。このへんは私も全く同意の考え方ですね。
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row2k.comより画像転載

そしてロンドンでアメリカ女子エイトが五輪2連覇の栄光に輝いたのちにホイップルが引退すると、あとを継ぐようにスナイダーが米国代表チームに戻り、2013からの4年間を再び黄金期として駆け抜けるのです。



2013~2015まで世界選手権3連覇、10年連続世界一と破竹の勢いで連勝を続ける女王アメリカW8+。
そして迎えた2016年、リオ本番に圧倒的本命としてアメリカW8+とスナイダーは五輪決勝に挑みます。
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若手のストローク、アマンダ・エルモアとレース前に握手を交わすCOXスナイダー。US Rowingより画像転載

リオ五輪決勝、乾坤一擲、スタートから攻勢をかけてきて頭をとったのは超ベテランCOXレスリー・トンプソン(56歳)が率いる永遠のライバル赤い艇のカナダ、そしてさらにファイティングCOXのエリ・ノールトが指揮するオランダでした。この2艇に先手を譲りアメリカはやや出られたまま3番手を進む意外な展開。このW8+決勝のレースプランとCOXの駆け引きはたいへん見応えがありましたが、スナイダーもだてに代表COXを務めてはいません。スナイダーは振り返ります。

「レースの序盤は、レースそのものの質を決めます。高いストロークと、良いリズムにクルーを100%集中させなければなりません。なぜなら、そうしないとリズムの死んだ艇にストップをかけるようなことになってしまうからです。あのとき、これが私たちのリズムだと知っていたのです。これこそが金メダルのリズムなんだと」
「そしてさらに、高い回転のストロークをより長くするコールをかけ続けることで、私たちは素晴らしく長いストライドを得ることができ、強いリズムがさらに生まれていきました。たとえ3番手であっても、このリズムの強さと良いフィーリングを保っていれば、必ず他の艇を追い越すことができると確信していました」

このスナイダーの言葉どおり、第3Qで勢いの衰えたカナダとオランダを力強くかわすと、アメリカは後半素晴らしい艇速を見せてまさに女王の強さを見せつける独壇場、イギリスとルーマニアの猛追を歯牙にもかけず振り切り、五輪3連覇という歓喜のゴールに飛び込むのです。

リオ五輪W8+決勝の動画


失意の底に落ちた4年前から再び五輪制覇を夢見たスナイダーが、リオのコパカバーナ湾で成し遂げた偉業でした。それは至上の喜びだったことでしょう。
彼女にとって、リオでの経験はまさに忘れられない永遠の祝祭となったのかもしれません。







五輪をめぐるストーリーは、それぞれアスリートの数だけ存在していると思います。
もちろん、五輪だけがボートではありません。
しかし、そのトップをめざすアスリートの中に、特異な存在として異彩の輝きを放つCOXというポジションは、ボート競技の中で違った角度からの魅力を教えてくれるのだと思っています。
そしてまた、今回は先輩COXとの関係というのが大きな影響を与えた要素となっていることもとても興味深いところです。チーム、指導者、先輩後輩、ライバル、友人、家族、そしてそれ以外の多くの人のつながりの中にこそ、アスリートの人間ドラマが生まれます。

そんなCOXストーリー、世界のCOXの中に是非とも日本のCOXも加わってほしいのです!



今回、他にも2、3人COXを紹介しようかと思いましたが、いつもどおり長くなってしまったので今回は諦めます(笑)。
たぶんこれくらいが丁度いい文章量です。(相変わらず長い)
魅力ある漕手はたくさんいますので、魅力あるCOXもこれからも多数、世界でも日本でも現れて大いに活躍してもらいたいものですね!
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