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さあ、長かったCOX特集も今回が最後です。予想以上に長引きましたが、何とかインカレまでに終われそうです(笑)。
※この記事を書いていたのは2014年8月でした
そして長いのは文章量。世界長文選手権、相変わらず長すぎですね~。1回ごとの小テーマや段落を毎日分けて更新すれば良かったんじゃないのか?という突っ込みも聞こえそうですが、それもそうなんです(笑)。毎日更新に匹敵する長さを書いてきましたが、ただあまり分けると見栄えも悪いかなというのが自分なりにありまして。このブログ形式だと、どんどん上に上に掲載されるレイアウトなので振り返ったときに読みにくくなって、あとあと順番に見ていくのが大変だろうという判断や個人的趣味の問題です。最初予定の15回が延長したため、全20回までに収めたかったのもありました。
まあしかし、長い文で色々山盛りに書いて、長い時間ボートのことを考える時間を持つというだけでも、こんな長文ブログが一つくらいあっても意味はあるんじゃないかとも思うんですよ。本音はもっと短くしたいんですが。

COXや漕手について色々書いていますが、これは違うだろうという考えもあると思うんです。こういうブログを書いていて、私が書いたことが重要なのではなくて、あなたが考えたことが重要なのです。そんなヒントや発想の何かとして、読んでいただけたらとても嬉しいと私は思っています。そして、こんなものどころじゃない、さらにRowingやCOXについて論をすすめた素晴らしい考えがどんどん発信されて、ボート界の情報交換が活性化されることを期待し願っています。

今回は、今までよりは短めに、最後まとめたいと思います。
COX特集最終章、「世界のcoxswain」(coxswain=発音はコクスン、コクスウェインとも)を男女1人ずつ紹介します。



1.Brian Price(Canada)
今回の記事はウィキペディアはじめネット情報をふんだんに利用するわけですが(笑)、世界的にトップレベルで活躍するCOXを紹介していきたいと思います。
まずはこの人、ブライアン・プライス。2000年代に入り一時代を築き最強を誇ったカナダM8+を率いた勇猛果敢なCOXです。
Brian Price coxswain
彼の華やかな戦歴はこちら。
2008年 北京五輪  M8+ 金
2012年 ロンドン五輪M8+ 銀
世界選手権のM8+では3回優勝、3位銅メダルが1回。そのほか実はM8+とのダブルエントリーでM2+によく出ることもあり、M2+では世界選手権で4個の銅を持っている珍しいCOXです。インカレ、全日本でもCOXダブルワークがあると経験も積めるし面白いかも?
ロイヤル・ヘンレー・レガッタでも3回優勝しています。

パーソナルデータは、162cm55kg、1976年2月19日生。
プライスは幼少期に白血病(血液悪性腫瘍)と戦い、この治療などが原因で発育に影響し、あまり背が伸びず長じても小柄なままだったようです。しかし、彼は胸を張って言うのです。「腫瘍の病気がなければ、僕は3度の世界チャンピオン、そしてオリンピックのチャンピオンには決してなれなかっただろう」
COXになる人は背が大きくなかったり、痩せていてアスリートに不向きな体格であることが多いのではないかと思います。しかし、そんな人でもCOXという最適なポジションを得てアスリートとして活躍することができる。すべてのCOXに勇気を与える言葉だと思っています。
プライス選手は私より1つ学年が上で同年代ですし、私個人としても病気を経験したり痩せ型だったりで何だか彼にはとても親近感や共感を覚えます。人間は身体を親から授かって自分の遺伝子を選ぶことはできません。色々な身体的な違いを生まれながらに抱えています。しかし、大事なのはハートであるということを教えてくれていると思います。

1995年、何か色々なスポーツをしたいと考えていたプライスは地元のローイングクラブに入ります。ここですぐにRowingの魅力の虜になった彼は、「艇を速くすること」、アスリートとしての自分にめざめるのです。1998年、工学の課程を修了し大学を卒業しますが、エンジニアへの道ではなくRowingへの情熱を選び、本格的にナショナルチームへの道を志しました。
キャリアを積みカナダナショナルチームのオープンM8+主戦COXとして世界選手権に出漕したのは2001年でしたが、最初に代表に選出されたのは1998年軽量級M8+でした。まだ22歳の時です。

カナダM8+が、ちょうどプライスがCOXを務めていた時期に世界トップを争っていたのは、世界的な名コーチであるマイク・スプラクレン氏がカナダM8+のコーチとして手腕を発揮した時期と重なります(2002~2012年)。スプラクレンコーチはイギリス出身ですが、イギリス、アメリカ、カナダと渡り歩き「Mileage makes champions」をはじめ数々の言葉でも日本Rowing界でおなじみですし、若き日のレッドグレーブ選手をオリンピアンに育てたり、オリンピックでは今までにコーチとして12個のメダルを獲得し(金4、銀6、銅2)、Rowing史に燦然と輝くもはや伝説のコーチといった絶大な存在の人です。ちなみに、バルセロナ五輪のときもカナダのナショナルチームをコーチしており(1990~1992年)、M8+を金メダルに導いています。
このスプラクレンとの出会いも、プライスにとっては大きかったでしょうね。

2008年北京五輪M8+決勝で栄光をつかむわけですが、カナダM8+は神がかった先行で歴戦の他クルーをおきざりにし、プライスのリードもあって攻め抜きます。最後は両脇からアテネチャンプのアメリカ、シドニーチャンプのイギリスの猛追をしのぎきって、カナダに16年ぶりのM8+金メダルをもたらしたのでした。プライスの、常に左右の展開をケアし視界を広く高く保った堅実かつ落ち着きリラックスしたプレーは印象的でした。

2012年ロンドン五輪では、スタート出遅れたカナダM8+。展開としてはやや頭一つ先行したドイツと、地元イギリスの激しいマッチアップとなります。しかしカナダは最後のラストスパートまで虎視眈々と構え、冷静なプライスのリードもあって、最後は奮い立つような猛スパート、わずか残り100mで2番手イギリスをかわして銀メダルを呼び込みました。こちらも素晴らしいCOXワークではなかったかと思います。
Brian Price coxswain 2 with M8+


ブライアン・プライスは、彼のウェブサイトで「COXのおもな3つの仕事」にふれています。
1.艇を真っ直ぐステアリングすること
18m近い長さのシェル艇を、ラダーによってコントロールしなければならない。COXの後ろにあるラダー、これを右へ左へと操作する。
2.レースプランを完遂すること
クルーはレースに勝つためにプランや方策を設定する。艇速のフルスピードを保つため、あるいは艇速を高めるため、具体的な技術ポイントを漕手へ提示する。例えばレッグドライブを強く、フィニッシュまで動かす、クイックなキャッチ、などだ。
3.クルーをモチベートすること
漕手を発奮させアグレッシブにさせなければならない、しかし同時に極度に集中させる。
クルーを楽しませることができたら、よりハードに、よりエネルギッシュに応えてくれるはず。モチベーションを上げることなくして艇を前に進ませることはかなわない。クルーを集中に引き込むことこそ、エキサイティングなレースをつくるための方法だ。

かなりシンプルに、COXの重要な点についてふれているプライスは、しっかりとこれらの「3 main jobs」を世界トップのエイトクルーにおいて遂行したのでした。
プライスは2008年北京の後に一度選手を退いて講演活動をしていたのですが、2年後にはロンドン五輪へ向けてカムバックしてカナダに銀をもたらしています。ロンドン後はまた選手を引退し、自らの闘病を克服、オリンピアンとしての成功など自身の経験やメッセージを人々に伝えるモチベーション講演活動のキャリアを再開しました。
COXには彼のように艇に乗ったり降りたりのカムバックも見られると思いますが(漕手の例のほうが多いかも?)、リオでは果たしてカナダM8+のCOXシートに彼の勇姿が見られるのでしょうか。



2.Mary Whipple(USA)
次に紹介するのは、アメリカ代表の才気溢れる女子COX、メアリー・ホイップル。
Mary Whipple coxswain 1 with W8+
彼女も歴戦のCOXです。素晴らしいキャリアはこちらです。
2004年 アテネ五輪W8+  銀
2008年 北京五輪 W8+  金
2012年 ロンドン五輪W8+ 金
何と、US Rowingの女子エイトを率いてオリンピック3大会連続のメダル、それも金2、銀1の素晴らしいオリンピアンです。世界選手権でも、W8+でこちらも2002~2011年の間に5回も優勝しています。シドニーの敗北をきっかけに、それまで優勢だったルーマニア勢から時代が移りアメリカがW8+の覇権を握っていくその中心に、アメリカを代表する女子COXであるホイップルがいたのです。しかもそのほとんどが2位と1、2秒差ほどの接戦ばかり。確かに世界最高峰のエイトのレースは水があくことはめったにありませんが、ぎりぎりで数々の接戦を制してきた、勝負強いCOXなのです。

彼女のパーソナルデータは、160cm49kg、1980年5月10日生。
カリフォルニア州出身のホイップルは、1994年に地元のハイスクールでRowingに出会います。そこでコーチにCOXをやるように言われ、すぐに自分のポジションだと確信しました。ワシントン大学に進み、NCAA(全米大学体育協会、ボートは女子のみ)主催大会でW4+(1999年)やW8+(2001、2002年)でタイトルをとるなど活躍、2000年にはヘンレー・レガッタでもW8+で優勝します。2002年の大学在学中にアメリカ代表(US Rowing)W8+のCOXになるチャンスを得て一躍注目され、代表のキャリアをスタートさせます。

その2002年のシーズンは大学でも活躍しましたが、いきなり世界選手権の大舞台でアメリカW8+を優勝に導いたのでした。
そして24歳の彼女は、初めての五輪となるアテネへとW8+のCOXとしてチャレンジします。大本命は、アトランタ、シドニーで連覇し圧巻の強さを見せて君臨していた女王ルーマニア。シドニーは6位といいところがなかったアメリカW8+、アテネ決勝では積極的に前半から勝負してルーマニアの半艇身差に粘り3位オランダをわずかに抑える準優勝を果たし銀メダルを手にしたのです。ルーマニアW8+の五輪3連覇を阻むことはできませんでしたが、その後アメリカW8+は力をつけていきます。

2006、2007年と接戦をものにしながら世界選手権を優勝してきたアメリカW8+はCOXのホイップルも確かな経験を積んで、今度は優勝候補ナンバーワンという期待を背負って2008年、北京に乗り込みます。北京五輪決勝は本命の3レーン。隣りにはあのルーマニア、そして永遠のライバル・カナダ。しかしアメリカはスタートから頭一つ抜け出し500mでカンバス差リード、そして1000mまでにルーマニアとカナダに対し逆カンバスにリードを広げます。こうなるとアメリカのペース。攻め気に満ちたホイップルは後半をしっかりまとめ、このままリードをキープし横綱相撲で金メダル、初の栄冠を手にしたのでした。

ロンドン五輪へW8+連覇へ向けて動き出したUS Rowing。
これまでもアメリカ代表W8+ではCOX2名体制の選考がなされていたのですが、今度はホイップルより7歳下のケイトリン・スナイダー(Katelin Snyder)との選考レースになったようです。2009年世界選手権は、このスナイダーにCOXの座を譲ります。しかし2010、2011年はホイップルが舵を引き、アメリカW8+はこの間、世界選手権3連覇。無敵のチームになりつつあった素晴らしい競争環境で、32歳になったホイップルは熟練のCOXワークを武器に見事ロンドン五輪W8+「9番目のシート」を射止め、3度目の五輪に臨みます。
W8+決勝、アメリカはスタートからぐんぐん加速していき700mですでに3/4艇身差、他を寄せ付けません。追いすがるカナダとオランダを尻目にアタックし続けるホイップルとアメリカW8+。レースでは女子COXも勇ましい叫びが響くコール合戦です。ラストはライバル・カナダが猛追を見せますが最後までレースを支配したアメリカが王者の貫録を見せつけ、五輪W8+2連覇を果たしたのです。


World Rowingサイトには、ホイップルのインタビューもありました。彼女はインタビューの中でこう答えています。

―COXにトライする人へ、あなたがアドバイスや励ましの言葉をかけるとしたら、どんなキーワードを送りますか?
「真っ直ぐにステアリングするのを学ぶこと、言葉をきちんと選ぶこと、そしてコーチやクルーに聞くことです」
ブライアン・プライスと同じく、とても基本を強調しているのが印象的です。まさにホイップルが心がけてきたことだと思いますし、そのようにしてオリンピック決勝という大舞台でもこれらを実践して素晴らしい結果へとクルーを導いたのだと思います。
Mary Whipple coxswain2

常勝チームとなったアメリカW8+。昨年2013年世界選手権では5秒差の圧勝。それから、同年ルツェルンのワールドカップで5'54"16のW8+ワールドレコードをマークしました。速いですね。インカレ男子決勝並みに近づいています。実はこのシーズン、ホイップルではなく前述のスナイダーがCOXに乗っています。さすがに五輪3度のメダリストのメアリー・ホイップル、ロンドンを機に後進へW8+クルーを託したのかもしれません。このスナイダー選手、実は前回リーダーシップの記事でかっこよく振り向いた写真のCOXがその人です。W8+、走り続けるアメリカの快進撃はどこまで続いていくのでしょうか。



ブライアン・プライス、メアリー・ホイップルと、世界トップで活躍したCOX2人を紹介させていただきました。この2人は個人のウェブサイトでCOXについての情報発信もしていますので、興味のある方はご覧ください。私もこれらを調べて記事を書かせていただきました。
彼ら以外にも、世界を見ると実にたくさんのCOXがいます。COX関連のサイトやブログもあります。
ロンドン五輪M8+で優勝したドイツのマルティン・ザウアー選手などをはじめ、本当に多くのCOXがいるのです。そしてまた、それよりもさらにもっと多くの漕手がいて、ボートマンがたくさんたくさんいるのです。
世界のRowingは広いです。情熱的で、Rowingを愛し、ボートバカと呼べるすごい人たちが、日本にもいっぱいいて、世界にはもっともっといっぱいいます。日々Rowingを究めようと情熱を注いでいます。彼らと出会い、刺激を受け、そして世界の舞台で競ってみたいと思いませんか?



3.最後に
さて、COXに関するさまざまなテーマを見てまいりました、今回のCOX特集。個人的にはいずれも大事なテーマや技能ではないかと思い、COXという世界を広げる試みとしてなかなかエネルギーを使って書いてきました。最初に申し上げたとおり、COXの地位向上、技術向上、意識向上につながればという思いでやってきており、それは例えば、日本におけるCOXも見直されるといいなという気持があったのです。COXは男女にかかわらず日本代表8+をめざしたいし、これ以上付き艇種目も減らしてほしくない。チームにおいても、Rowingの大事なポジションとして尊重される存在となり、だからこそCOX自身がアスリートとしてもっと高いレベルをめざし技術向上と意識向上とに努めなければいけない。このポジションには、覚悟と誇りが必要なのです。

まあ、こうやって色々な主張もしているわけですが、そうは言っても、私だけの考え方に縛られることは全くありません。人の考えは鵜呑みにしてはいけなくて、自分の頭と身体でいつも考えることが必要です。また、これまでふれたすべての技術を完璧にこなさなければということでもないと思います。冒頭の言葉の繰り返しですが、Rowingを考えるための何かの気づきやヒントにしていただけたら、それだけで幸いです。ちょっと考えたいときに、こうした記事内容を読み返していただけたら嬉しいですね!

ただ、COXとしてこれだけは負けない!という得意な技術、武器についてはぜひ身につけてください。このような自信は、日々の競技生活やぎりぎりの戦いとなるレースにおいて、絶対に必要だといえるでしょう。
Rowingに対して絶えることのない好奇心と研究心、真摯な姿勢を持って、クルーの信頼を勝ちとり、一流のCOXをめざしてください。クルーにとって必要不可欠なCOXをめざしてください。そして、Rowingをもっと好きになってほしいなと思います。


最後に、今回の特集を書いていくにあたり、いくつかのヒントや参考を求めて読んだ書籍の栞に載っていた言葉が目に留まりましたので、ここに記しておきたいと思います。数々の名言や格言を遺した日本を代表する経営者、松下幸之助の言葉です。

「学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。
語らぬ石、流れる雲、つまりはこの広い宇宙、
この人間の長い歴史、
どんなに小さいことにでも、
どんなに古いことにでも、
宇宙の摂理、自然の理法がひそかに脈づいているのである。
そしてまた、人間の尊い知恵と体験がにじんでいるのである。
これらのすべてに学びたい」

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