1.「ローイング安全マニュアル」を読んで理解しましょう
COXの最大の任務は、「安全」です。
クルーの安全管理の責任者としての役割はさまざまですが、ただ単に、乗艇中には艇やオールをぶつけない、事故を起こさない、ということを自分たちに言い聞かせるだけでは不十分です。
そもそも「安全」とはどういうことか、もう少し踏み込んだ具体的な心構えと、必要な知識、そして「安全」について考えるということが、COXはもちろん、漕手の皆さん、そしてわれわれRowingに関わる人全てにとって、ほんとうに大事なことなのです。

そのためには、日本ボート協会のHPトップに掲載されている、「安全なローイング」のページに入っていただいて、協会の公表する「ローイング安全マニュアル」を熟読し、実践していただくことが一番良いと思います。

「ローイング安全マニュアル2013」(PDF版)
http://www.jara.or.jp/safety/2013/safety2013.pdf

これは、日本ボート協会の安全強化委員会が発行した安全指導書です。今回の特集でも何度もサイトを紹介させていただいているO沢さんの、作成・監修によるマニュアルで、Rowingの安全に関する記述が網羅されています。
本当に丁寧なつくりで、おなじみのきめ細かい配慮に満ちた記述と文章で、相応のボリュームがありますが、私のブログを読んで下さる方ならこの文章量はわけなく読破できるはずです!(笑)
Rowingというスポーツに関わることは、「安全とは何なのか」を考える意義から始まり、さまざまな事故や危険の例、安全に関する知識と技術など本当に多くが詰め込まれています。
安全に関する理念について、冒頭あるいはたびたび本文の中において繰り返しふれられていますが、巻末の「おわりに」の内容も必見です。



2.安全を考える
このマニュアルを読んでいただければ、本当は私などが言うようなことは何もないのですが、COXについてだけでなく、ボートにとって必要だと思われる部分の抜粋や強調、あるいは私なりの補足などをしていきたいと思います。

ボート競技において、「安全」を確保して練習やレースを行うことは、常に第一義でありました。エンジョイ目的の乗艇でさえ、「安全」に、無事に上がることをひと時も忘れてはいけません。
Rowingは自然の中のスポーツであります。自然に対して、常に知識と情報を持ちながらも謙虚でなくてはいけない。無知や過信をもって接してはならないということ。また、人為的な接触や衝突など、競技者内外の事故がありえます。そして、時に体力をオールアウトするようなハードな競技特性から、自分自身やチームメイトの身体についての理解というものも必要になります。

考えてみれば、ボートに限らずアウトドアスポーツにおいては、常に危険や怪我のリスクに満ちているわけですし、インドアスポーツも人為的な事故の危険がないわけではない。ボート競技はとりわけ、時に生命に関わる危険もあることから、「安全」については十分な注意が呼びかけられているスポーツのひとつではあると思います。それでも、まだまだ意識できる、というような謙虚さや慎重さこそ重要なのかもしれません。注意しても、しすぎることはないのです。
それは、自分、そしてチーム、さらにボート界全体が「安全」を考えて、Rowingというスポーツに関わっていかなければいけないということにつながっていきます。



3.Rowingを「安全なスポーツ」にするために
例えば、今の時代の親御さんたちは、自分の子には「少しでも危ないことはさせたくない」という方が多いだろうと思います。親心からすればそれは当然ともいえます。しかし、絶対に安全なスポーツや習い事があるとしたら、そのスポーツなどは子どもに「安全とは何か」ということを教えてくれるでしょうか。天災や人災、さまざまな予期せぬリスクにあふれた現実の世の中において、自分や周りの人の身を守り、危険に対する対処法を教えてくれるのでしょうか。

チームスポーツが、対人能力やコミュニケーション能力、人を思いやる気持などの、社会的な能力や感性を育てるのと同じように、自然の中で行い接触事故のリスクが少しでもともなうRowingというスポーツに関わることは、自然の特性を学び、リスクマネジメントの考え方や対応を身につけ、おごらず謙虚な姿勢を育てることにつながります。COXやクルーリーダーにおいては、クルーに対する責任感や判断力を育てます。スカリングにおいてはあらゆる自己責任、自己解決能力も養います。

Rowingにおいては、指導者、漕手、COX、マネージャー、組織の責任者や運営者など、あらゆる立場の人が「安全」についてしっかり考える必要と責任が生まれる、そういう意味でとても意義のあるスポーツだといえるのではないでしょうか。本来は、世の中に絶対「安全」などというものはないわけですが、リスクと緊張感のある環境下のスポーツにおいて安全に競技生活を送るためにさまざまな努力をして、ノウハウや心構えが身につく。
「危険を克服するスポーツ」としてRowingに関わることが、逆説的に「世界で一番安全なスポーツ」になる、というのが安全強化委員会の理念に通ずるところです。

安全は、「自分を助ける」だけではなく、「周りも助ける」、になることでより大きな意味を持つと思います。事故を未然に防ぐには、「安全意識」が低いクルーに対して、注意や、時には危険から守る行動も必要です。安全な航行ができていなかったり悪天候の予報を知らない初心者クルーなどには自分のチームはもちろん周りのチームでも注意を呼びかける、中級以上でも身勝手な航行や不安定な航行をしているクルーには意識向上を呼びかける、他クルー同士であっても気づかずぶつかりそうな状況を見たら声を出して気づかせたり止める。こうしたことがボート界全体にもっと浸透することで、危険を減らすことができると思います。
実際に身の危険が起きた際の応急対応、沈や故障して動けないクルーを見たら真っ先に助けに行く。救助の方法を身につける。人の命や危険を救えるという行動は、本当に大事なことだと考えます。

前述の「ローイング安全マニュアル2013」に出てくる言葉で、
「生涯有効な安全力を身につける」
「毎日の活動そのものが、そのまま安全訓練でもある」
というとても印象的なフレーズがあります。まさにこうした意識を身につけ、日々実践することができるRowingというのは、本当に素晴らしいスポーツではないでしょうか!



4.COXの役割としての安全管理
第3回の「COXの基本」でも安全管理にふれましたが、COXは安全面の責任者です。
とはいえ、役割としてしっかり意識するのが大事なことですが、それ以上に「安全」はチームとして取り組むべきです。自分たちの活動する水域に特有の情報をきちんとチームで共有すること、また安全管理のためのノウハウ、安全に対する意識向上、事故の予防と事後の対応、さまざまな対策やルールづくりなど、チームにおいて日頃から講習会や勉強会などをすることが重要だと思います。

それこそ、「ローイング安全マニュアル」をベースにしてレクチャーをおこなったり、チーム事情に合った実践的な枠組などを話し合うことが必要ではないでしょうか。私もコーチをしていたときに、果たして安全のために何をやれていたのかというとたいへん疑問が残ります。戸田でコーチをして約15年間の中で、他団体との艇同士の接触事故や、自分でぶつけてしまったような件も含めると、必ず年に数回のレベルで起こしてしまっていました。選手が大きな怪我をしたような事故がなかったのは本当に運が良かっただけとしか言えず、艇を大破させるような大きな事故もありました。それにもかかわらず、ごく当たり前の対応しかせずに、安全に対して特別な対策をきちんとはやりきれていなかったと、自戒をこめて振り返る次第です。

ミーティングの場で注意を呼びかけたり訓戒をする以外に、もっとできることが色々あったはず・・・。選手の意識を変えられなければ何もできていないことと同じですし、それにはとにかく自分の意識から変える、が必要なのだと思います。
少なくとも指導者から意識をもち、そして当の選手たちが自主的に安全意識を高める取り組みを定期的にやるくらいに、意識を上げたいですね。COXは、その意識向上のリードができると思います。
エイト周囲見渡すcox
↑周囲の安全に目を配り、気を配って集中するCOX

COXのある選手は、「現役中の目標として乗艇中の無事故」を目標にしていたそうです。これは、COXとして素晴らしい目標だと思います。
「ハインリッヒの法則」という有名な事故・災害の経験則があります。
「1つの重大な事故の背後には、29の軽微な事故があり、そして300件の異常(ヒヤリ・ハットするような、事故にならなかった出来事)が存在する」。さらには、「幾千件もの不安全行動・不安全状態が存在」し、そのうちの予防可能であるものは、全体の98%以上も占めているというものです。
つまりは、COXはこの300件のヒヤリ・ハットの段階での異常を極力減らすように努め、なおかつ予防可能である数千・数万の不安全な行動や状態を改善し減らすことが、1つの重大事故を減らすことにつながるということです。ピックアップすれば、実にたくさんの改善点が出てくるはずです。

危険・リスクを完全にゼロにすることはできません。しかし、ゼロに近づける努力にもまた限りはありません。用心を忘れず、セーフティに、そして安全に関してはリスクを冒さず、必要な情報は漕手へと伝えていくことです。漕手もまた安全に関して協力体制と意識づけに乗艇中も乗艇以外にも取り組み、不安全な行動と状態をなくしていきましょう。
ヒヤリ・ハットは、「危なかった」で済ませずに、必ず改善できる点としてノートに記録するなどして、原因と対策を挙げてクルーやチームで共有しましょう。

そもそも、天候や自然災害などなかなか回避が難しい事故さえも、なるべく気象予報など情報を掴んでおくことによって回避できるように心がけます。特に最近は、ゲリラ豪雨や落雷、竜巻のような猛烈な突風など、激変するような局所的な集中的悪天候が発生しやすくなっています。季節によるものもあるわけですから、空模様や事前の気象情報によって、乗艇そのものの判断に慎重になるべきと思います。

危険予測も重要なことで、COXやなし艇漕手は、予測力を高めましょう。後ろのクルーが、前の自分たちに気づかず突然、ノーワークからパドルに入ってくるかもしれないのです。大型船舶が、こちらに気づかずに速度を上げたり、航路を変更して向かってくるかもしれないのです。大雨の翌日などは危険がいっぱいです。さまざまな情報から、起こり得るパターンと、予測できる人為的行動や、天候、水域のリスクなど環境の危険。想像力も豊かにして、予測して回避する力を身につけましょう。
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