さらに、「艇を感じる」ことの後編として、ここでは艇速にふれていきたいと思います。


1.艇を感じて、スピードをコントロールする
前回(第6回)でふれた艇のネガティブな挙動を安定させるコントロールも大事ですが、これらは艇速を高めるためのいわば土台です。艇速そのもののプラス側へのコントロール、つまり艇を感じた上でのパワーのコントロール、出力コントロールも重要です。COXは特に艇速変動を感じるスキルを身につけたいです。

強い力を出して、何をどう動かすのかを感覚的にわかっていなければいけません。
クルーが動かす対象である、艇のボディと質量を感じる。水という流体に浸かった、空洞のある硬い殻のような、選手重量を載せた重さのかたまりである艇体。船舶なら船体、航空機なら機体、自動車なら車体といいますが、乗り物はどれもその形状や構造、質量、動かすためのエネルギーの違いなどによって、動きに特質を持っています。

この重みや浮力、動きの性質をしっかりと感じて、イメージしてください。そしてどのように動かしたらスピードにつながるか、動かすイメージを作ってください。理想的に制御するイメージを作ってください。そのための、身体の動きと出力の仕方、身体の重さを感じて艇の動かし方とフィットするフォームを作り上げてください。

COXによる感覚のパフォーマンス向上として、マイナス挙動をコールで改善する部分もありますが、艇速プラスができるように、「艇速がどう変わったか」を見極める、感じ分ける、この能力が必要です。具体的には、マイナスが改善されたならば「良くなった」、あまり変わっていなければ「もっと変えよう」「もう少しこうしよう」という、漕手へのフィードバックが確実にできるようにしたいのです。
「まだまだ」「もう少し」「そう!」「これだ!」「いいぞ」「もっと良くなる!」
このようなコールによって、漕手の漕ぎを変化させ、よいサイクルを定着し、さらに上の艇速へチャレンジする。それには、COXが艇を感じる能力が必要なのです。

ある程度の水中が出ていれば、まずは技術コール中心でマイナスをなくし、クルーの統一性にこだわっていく。これは粘り強く時間をかけてください。そして、艇の動きや漕手パフォーマンスが安定できたところを見計らって、水中コールに切り替えていくことですね。艇の挙動に関して安定しなければ、全力の水中はなかなか出せないからです。
もちろん、水中の出力の仕方についても、「ハムストリングを意識してフルに使おう!」「股関節から下半身でダイナミックに!」とか、「キャッチの強いポジション徹底」「一気に加速、フィニッシュで突き放そう!」というように、出力ポイントやクルーのパワーカーブを統一するようなコールにしていくと、イメージやポジティブフォースがまとまって共有できるので、良いでしょう。



2.ラップの読み
私は、COXはラップタイムをとれるコースであれば、常にラップをとると良いと思います(地点表示の常設がないような水域では、スピードコーチを活用しているでしょうね)。そしてさらに、ただピッチ計(ストップウォッチ)で計測するのではなくて、自分でもラップの推測をしていきます。COXは日頃タイムをとっていれば、自分の乗っているクルーの今までの平均タイムを知っているはずです。(もちろん、順の良いタイムを標準と思い込んではいけません)
このタイムと答え合わせをするようにして、「今の500mは何度か乱れて失速したから、順でも2'00くらいかな」とか、「今のはバランスが良くなったあとの水中コールが決まって伸びたから、1'57は出ていただろう!」という感じで、実際の計測したタイムと、自分の読みを照らし合わせるのです。慣れてくれば、かなり実際のタイムとの誤差が減ってきて、ラップをある程度読めるようになるはずです。(私はトップCOXでよくやっていました)
スピードや水中の感覚が身について、COXも一本一本のストロークに集中できますし、タイムに影響する風向きやコンディションも掴みやすくなります。ミスやマイナスがあった時にすぐ失速をカバーしようと反応も良くなり、失速を未然に防ぐようなコールにも細心の注意を払うようになります。何より、常に艇速と感覚を追求するアスリートとしての姿勢が生まれます。

レーシングアスリートとして、漕手もCOXも「ラップを読む感覚」は備えていたいものです。しかし、注意したいのは、「パフォーマンスが良くなってこれだけ艇速が伸びた」という感覚を伸ばすことはできますが、「ここが良くなったのにタイムは変わらない」というときに、最終的には「艇速優先」を選択したいことですね。「思い込みの感覚」に惑わされず、客観的なコーチの目や実際のタイムという客観データを頼りにしながら、いちばん艇速が出せるときの感覚を大事にしていきましょう。



3.トップCOX で艇を感じる
トップCOX艇では、スターンCOXと違ってブレードワークや漕手の動きがほとんど見えません。しかし、経験を積めば漕手へ的確な指示を伝えることができます。
以前の回で少しふれましたが、トップCOXはどうやって漕手に指示を与えればいいのでしょうか。

トップCOXでも、横や斜め後方を見れば、何とかバウや2番くらいはブレードの背中が見えます。しかし、あまり参考になりませんし、ずっと振り返っているわけにもいきません。横や後方を見る目的は、むしろ安全確認のためと、レースで相手位置を確認するくらいのものです。
基本的には、トップCOXでは「前方とラダーワークに集中する」のが第一。そして、スターンCOX以上に「艇を感じる」ことが大切です。

ここまで見たように、「艇の動揺」「艇速変動」をCOXとして知っていて感じとれるようになれば、それに対しての指示やコールによって改善することができます。
艇がどのように動くのか。それをトップCOXでは全身で感じることができます。方向感覚も、バランスの平衡感覚も、力感も、浮力や水の抵抗感も、自分の身体の一部のように、トップCOXでは艇と一体となって感じましょう。漕手とのイメージ共有が確立されていれば、自分のコールによってイメージに合った艇の加速と走りが可能で、良い時はどこまでもスピードが伸びていく、奮えるような感動を味わうことができます。
レース①COX
↑まるでF1マシンを意のままに操るドライバーのように、COXは艇を操縦、運転してコントロールします。

しかし、艇やリガーから伝わってくるキャッチやドライブ、フィニッシュの振動や力などは、COXに一番近いバウによるものであることが多いですね。それでも、艇体の揺れ(ヨーイングや上下動だけでなく、ローリングやサージングも)を感じることで、技術的なコールをかけていくことはできます。普段からビデオで確認して、漕手の動きや癖を把握し、ある程度想像しながらの指示になると思います。そして、良い時、悪い時の感覚をCOXがしっかり分かっていれば大丈夫です。悪い時はやはり艇が安定しなかったり水中がぬるくて進みが悪いのはトップCOXで感じられるポイントですので、的確なコールをかけて良いストローク・サイクルに変えていきましょう。
そして、艇速については、前項でのラップの読みの感覚も使いながら、実際のタイムを見て良い艇速へとリードしていきましょう。


トップCOXというのは、かなりCOXの身体が艇の動きに翻弄されるもので、フォワードで漕手の体重移動とともに艇と一体となりキャッチ前の減速により一気にテール方向へと引き寄せられ、キャッチで「ガツン」と逆方向の衝撃がかかり、後頭部や首にかなりの圧力がかかります。ドライブでは加速の中で頭が押された後、足を踏ん張らないと今度はトップへ押しやられて持って行かれます。レースペースでは、「急加速、最高速のニュートラル(慣性)、急減速」を繰り返すサイクルなんでしょうかね。その中で、なるべく身体を安定させるフォーム、力加減が必要です。

あくまで私の経験ですが、キャッチが決まる決まらない、ドライブの強弱などは、やはりバウから伝わるものしか分かりません。
しかし、クルーで揃うと、やはり感じとれる感覚があります。良いキャッチの時は「グッ」という確かな重さを感じます。全く力が逃げない水の重み。進むときは、とても安定して強いドライブのときですね。「グウウー」と、ずっと深く重い、艇全体に良い抵抗がかかっていて鋭く確かなドライブ。悪いキャッチの時は、力が逃げて「ガッ」と艇の衝撃ばかりのように感じます。水中も明らかに鋭さや抵抗感がなく「ぬるい」感じです。艇速のもとは、キャッチがとても強く重くて力が逃げないことが大事ですから、ここをきちっと作れるように、キャッチ姿勢が重要ですし、良いキャッチは良いリズムからなので、ドライブやフィニッシュからサイクルを積み上げていくことだと思います。

スターンCOXでもそうですが、揚艇後には漕手の感覚を聞き、自分と漕手の感覚をすり合わせて、特に良かったときの感覚やそこに至るまでのアプローチをCOXとして確立させていくことだと思います。



4.スターンCOXで艇を感じる
スターンCOXでは、漕手の動きはほとんど整調しか見えませんが、全体のブレードワークが見えるので後ろの漕手の動きも分かります。まずブレード観察によって、漕手個々の動きも把握できるように努めたいですね。それを、一つの艇を動かすパフォーマンスへとつなげたい。
エイト、coxの視界②

しかし、スターンでも視覚だけに頼らず、感覚のパフォーマンスを高めて、艇の動きを感じとれるようにしていきます。
トップCOXの項で見たことと同じです。艇の揺れや動き、艇の加減速に集中します。理想の「艇の動かし方のイメージ」を常に描いて、そこに近づけるアプローチを繰り返します。COX席のお尻や足から伝わる艇の感覚、ガンネルから伝わる感覚と、そして視覚でとらえる全体のブレードワークや漕手の動きと一致した情報から、指示を伝えるようにしていきます。指示を出した結果、どのように視覚と感覚が変わったかに注目します。

トップCOXのときと同じように、水中感覚にも集中をしてください。そして、艇速を第一とした指示やコールによって、良いタイムを出していくように努めましょう。
艇速が上がってくるほど、視覚よりも、感覚に頼ったスピードコントロールをしているはずなのです。良いときは、ブレードワークも良く見えますが、それ以上にドライブ中の艇の安定感や力強さ、フォワードでもまた安定した疾走感、前後・上下動のスムーズで一定したリズムという感覚を求めて、艇と一体化したCOXワークをしていくべきなのです。
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