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この章では、COXの2大ワークである「ラダーワーク」、「ボイスワーク」のうちの、ラダー、つまり舵について考察していきます。
舵を操作するcox

1.舵の原理
ボート競技の艇には、1×と2×以外には舵がついており、付き艇は舵手が、なし艇は漕手が、ラダーワーク、つまりステアリング(操舵)を行います。(ラダーリングともいったりしますが、これは和製英語でしょう。ボート競技は和製英語が多いですが、野球やサッカーも同じようなものですから、用語として伝わればいいのです)

メカニズムとしては、艇尾に取り付けた舵板が水中にあって、舵を引いて角度をつけることで抵抗を生じ、流体力学上の揚力を利用して、舵と艇尾が押されて「艇尾(テール、スターン)が横にスライドして」艇軸が回転します。つまり、舵を右に切れば、艇尾が左にややスライドすることで艇首が右を指します。艇首が振られるのではなく、艇尾が振られます。この、艇首(トップ、バウ)が指し示す方向を、「針路」といいます。「針路」は「進路」とは使い分けられる言葉で、船舶や飛行機など乗り物に使われる用語です。
また、揚力を利用したものには、鳥や飛行機の翼、船舶の舵、ヘリコプターやプロペラ、凧などがあります。
揚力を示す図
(↑上の図のように水流のある中で舵を切ると、舵の両面に圧力の差が生まれます。上の図であれば、この圧力変化によって上方向にスライドします。これが揚力です。翼であれば上昇します。当然艇が進んでいないと、こうした水圧も生まれないので舵は効きません。)

目標に対し針路を真っ直ぐに保つのが基本ですが、それだけで直進できるとは限りません。針路が真っ直ぐ12時方向を向いていたとしても、風や波の影響で横に流されて、艇が横滑りしながら11時や10時方向に進んでしまったりすることがあるのです。水流や気流の影響を受けて進む、船舶や飛行機の進み方の特徴です。
ですから、順でも逆でも横のベクトルが入って艇が横に流されるコンディションの時は、進みたい目標と針路をずらすことが必要になります。これに加えて、漕手のドライブなど両舷にかかる力のずれによって、針路は数度単位でめまぐるしく変わります。

こうした原理をボート競技では頭に入れて、感覚で掴んでいかなければいけません。私は、ラダーは指先の感覚が重要と思っていますが、こうした知識と、目標のとり方や目のパフォーマンス、状況判断など、総合力が必要な技術だと思います。漠然とラダーを切っていると、いつまでも上達しないと思います。
流体力学という分野はボート競技に関連性が高いので、船や航空に興味がある方だけでなく、勉強してみると面白いかもしれません。(物理学専攻の方は特に。文系もチャレンジしてもいいかも!?)



2.舵の構造と整備
ラダーは艇尾についているといっても、フィン(魚の腹びれや尻びれのような形で、横揺れ防止・直進性を高めるために艇の底に取り付けた板)のそばに位置する艇と、フィンから離れた最後尾にラダーがついている艇と、こちらもメーカーやモデルによってさまざま。材質は最近ではフィンと同様、アルミやカーボンだったり、形状もかつてはナックルに見られるような楕円の長靴のような形から、今は長方形や平行四辺形が主流ですね。大きさも大小さまざまで、「こんなに小さいの?」というラダーもあります。ラダーが違えば、引いたときの感触や舵効きも変わってきます。ヨット競技でも当然舵は重要で、これらは造船技術や研究の進歩によるもの、なかなか奥深いです。

ラダー構造は、ラダー本体に棒状の軸がついていて、ラダーチューブという金属の筒に通しカンバスの上でラダーヨークを取り付けます。ラダーヨークとは、両端をラダーロープで吊って引くためのT字になっている横棒部分の部品です。ヨークとは家畜の首にはめる横木の「くびき」を意味するそうです。このラダーヨークの両端にラダーロープ(ワイヤーやケーブルなどメーカーによって材質や呼び名が違う)を結んで片方を引くことで、軸回転で舵角を変えるよう操作するわけですね。
ラダー、ラダーヨーク、ワイヤー
(↑見づらいですが、水中に舵板があります。右のロープを引けばヨークが引かれて右に舵角がつき、右舷に曲がっていくということです。最新のモデルでは、上に取り付けたヨークとワイヤーを露出せずに、カンバスに内蔵されている艇も出ているようですね。)

このワイヤーはスターン及びトップのCOX席まで、なし艇なら漕手のシューズの位置まで引っ張ってきます。一般になし艇のラダーは、ワイヤーをカンバス上でクロスさせて、靴のつま先角度と同じ方向にラダーを切れるようにします。
ラダーロープはスターンCOXなら直接指で引いて舵を操作します。トップCOXはラダースティックとつないでこれを左右に動かすことでワイヤーが引けるようになっており、トップCOXのラダーはさながらパイロットの操縦桿(そうじゅうかん)のようですね。

ラダー回りは、舵効きに関わってくるので、COXは定期的に点検しましょう。ラダーヨークの接続の緩みや角度、ワイヤーの具合などです。水底の障害物に当てたり、艇運搬の際などの接触などで舵板自体が曲がってしまうこともありますので、フィンも含めたラダー回りは時には部品交換も必要です。オールやシートの故障以外に、まれにラダー故障が原因でレースに敗れる例もありますので、しっかり整備してください。



3.操舵(ステアリング)の基本
スターンCOXでは、左右のロープを前に引いたサイドに舵が効きます。右のロープを前方に引くとバウサイ(右舷)へ、左を前に引くとストサイ(左舷)へ曲がります。トップCOXでは、ラダースティックを片手で操作し、右に動かせばスティックの中心軸をはさんで反対側の先端がワイヤーを引っ張るため、ストサイ(右舷)へ曲がります。左はバウサイです。

ラダーを引く、エイトの舵を引く、というように日本のRowingではCOXが操舵する際のアクションを意味する使い方と、「COXを務める、COXとして出漕する」の慣用的意味で使われることがあります。しかし、現在の選手間では「ラダーを切る」「舵を切る」の表現が一般的であるように思います。ロープやスティックをわずかに数cm動かす微細なアクション、わずかに舵角を調節して抵抗をつける、この感覚のニュアンスが「切る」という表現になっているのではないでしょうか。そういうわけで、以降、「切る」という表現に統一します。

ラダーは、「早めのタイミングで」「ゆっくりした速度で」「小さく」切る、というのが基本です。
艇が理想の針路から大きくそれて蛇行してしまってからでは遅いので、早めの判断と操作が必要です。そして、ラダーは先ほど見たように舵角によって抵抗をつけるので、艇速にはマイナスです。最小限の操作回数と、小さく切る、ということが基本とされています。大きく切り過ぎると、舵角がつき過ぎて逆に舵が効かなくなり、大きく減速するからです。

そして、一般にラダーを切るタイミングはドライブ中です。艇がブレードで支えられ安定するからです。フォワード中にラダーを切るとバランスが乱れることがあります。ただし、ドライブ中は安定するぶん舵効きが少し弱くなります。ドライブ、フォワードでの舵の影響を色々試してみるとよいでしょう。ノーワーク、パドルでも舵の効きやバランスへの影響を比べてみてください。どれが良いか直感で分かるのではないかと思います。艇のマイナスを最小限にするのが、良いラダーワークです。

また、なし艇ではシューズのつま先を左右に動かし角度をつけてラダーを切るので、これは現実的にフォワード中しか切れないはずです。ドライブで脚を使いながらラダーを切る芸当はなかなかできないですよね(笑)。
なし艇 ラダーシューズ

艇は、曲がって、針路がぶれ、蛇行するものです。特にスイープ種目は蛇行が顕著です。直進性を高めることは、Rowingにおいてたいへん重要な技術です。レースでは一度の蛇行で、戻すまでに簡単に半艇身、1艇身という差がついてしまいます。レース展開の中ではこれはかなり致命的ともいえます。
さらには、スタートです。発艇で風や波でトップが流れる中、艇の方向を正しく保つことも難しいのに、一本ごとにぐんぐん曲がっていくことがよくあります。全日本選手権の決勝でも、最初の蛇行で勝負あり、というシーンが見られますし、世界選手権やオリンピック決勝でもスタートや中盤以降の蛇行が勝敗を分けている時が見られるほどです。けっこう、世界のトップクルーにも蛇行はつきものです。
スタートダッシュでは、蛇行しない艇は皆無と言っていいと思います。技術的に劣るクルーは、より激しく蛇行します。スタートは、コンスタントに移行するくらいまではかなり頻繁にラダーを切ることが多いでしょう。まさに、舵が勝負を分けるのです。
蛇行があるからこそ、舵が活躍します。針路が安定しないと、漕ぎも安定しないものです。舵をうまく使って直進することができ、早い段階で軌道に乗りリズムに乗ったクルーがレースを有利に運べるということです。



4.ラダーテクニック
もう少し突っ込んで、舵の技術を追究してみることにしましょう。
舵効きという言葉を何度か使っていますが、スターンではラダーロープから伝わる舵の抵抗と実際の効き具合が、指先の感覚に集中することでわかってきます。トップではスティックを通じてワイヤー、そして舵の抵抗や負荷が指から伝わります。これらは、COXであれば共感してもらえる感覚のはずです。ラダー形状や位置、ロープの張りなどによって異なり、艇が変わるとだいぶ感触も違うので、乗り替わる際は慣れる必要があります。エイトはやはり艇が大きく長いので、舵効きは少し弱めです。

舵がよく効く最適な舵角があり、どれくらいラダーを切ればその角度になるか、これを見つけましょう。しかし抵抗にもなるわけで、基本どおり通常は舵角を小さく、つまりほんの数cm程度ワイヤーを動かして修正するのが良いと思います。普段は一発で一気に針路を正そうとせず、こまめに切ります。しかし、いわゆるサイド負けが激しいときはこの限りでないと、私の選手時代を振り返ると思います。これはCOX教科書のようなものがほとんどないので検証が必要ですが、1ストロークごとにどんどん曲がるときには、1ストロークごとに強めに切っていきます。指先感覚が大事です。
舵の抵抗よりも、蛇行のロスのほうが圧倒的にマイナスが大きいので、小さく切っていくか強めに切るか、艇のぶれ具合を見極め感じ分けてチョイスしてください。

船舶や航空の世界には、操舵の教えがいくつかあり、特に「当て舵」「見越しの舵」「無駄舵」があります。

本来、艇の針路を大きく変更するのが舵の役目。しかしボート競技では、そのような大きい舵操作は河川の曲がりくねったカーブを通過する時や、障害物をよけるとき、岸がせまった狭い川幅を迂回するコース取りをする時くらいのものです。
多くは真っ直ぐ、直進するために舵を使います。「針路をレーン中央に対し真っ直ぐ」をキープする。
特に、艇首が隣のレーンを向いてしまったらほぼレーン侵害に向かってしまいますので、この艇首(トップ)のぶれを正すために舵を使うのがほとんどです。キャッチ、ドライブ、フィニッシュそれぞれのサイドの不均衡な力によってトップの方向はどんどん変わります。また、バランスが傾くとより方向が変わりやすくなります。
艇首が右にぶれると、艇尾は左を向くように、艇の中心点から回転するような揺れを、ヨーイングといいます。

このヨーイング(針路変動)を正すためにトップを真っ直ぐに保つよう舵を切るのが、「当て舵」というテクニックです。本来は船舶用語で、舵を切った際に、惰性によって船首が曲がり過ぎるのを抑えるために、針路に入る直前に反対方向に切ってコントロールする舵のことを当て舵といいます。後輪が滑って逆ハンドルを切る運転技術、いわゆる「カウンタ-ステア」と同義です。
ボート競技では艇首がドライブなどでぶれる際に逆方向に舵を切り、艇首の回頭を制御し真っ直ぐをキープするためのラダーテクニックをいいます。ボートでは知る人ぞ知るような用語ですが、無意識に使っているCOXは多いはずです。

私の感覚では、クルーの癖もありますし、キャッチ、フィニッシュなどはいつも決まるとは限らず1本ごとに合うとき合わないときがあるので、まずCOXは艇を感じることが大事。艇の動揺に合わせ、キャッチで当てる時もあれば、「これはかなり曲がるな」というときはドライブ中に少し長めに切り、さらに左右のリリースが不揃いの時はもう一度フィニッシュからシートが出るまでの間に舵を当てます。感覚と予測によって当て舵を駆使します。
艇首の回頭を抑え、艇尾を元に戻すための舵の負荷が伝わるので、まさに「舵を当てる」感覚です。

強く曲がるときは強く当てなければいけない。それほどでもないときは弱めでも大丈夫ですし、ラダー回数を減らせます。
漕ぎが不安定な艇は、舵を使う回数も増えます。この場合、まずはラダー以上に、漕ぎの修正が必要ですね。艇の動揺の種類を感じながら、ラダーと漕ぎへの指示で艇を安定させましょう。

「見越しの舵」とは、車のブレーキのように、どこから踏み始めるかという予測、先を見越しての舵ですね。先ほども言いましたように、やみくもに切るのではなく、どこでラダーを使うかを判断して効果的に、最小限に済ませることが、艇速マイナスを減らすわけです。予測力、判断力こそがラダーテクニックというわけです。

「無駄舵」というのは、小さな微妙な舵を使ううちに、自分の操作した舵の量とその効きを十分確認できず次の修正操舵をしてしまい、このようなことを無意識に繰り返してしまう無駄な舵のことです。常に意味もなくラダーを動かしてしまうCOXは、意外と多いのではないかと思います。車の運転にもよくある癖だと思いますし、初心者パイロットにも多いそうです。本当に安定した、必要な時に細かいラダーができるCOXになるために、無駄舵を減らしましょう。



5.理想の舵とは
ラダーワークで最も理想なのは、ラダーを使わずに済むこと、ノーラダーが究極だと思います。しかし、実際には艇はさまざまな動揺を繰り返し針路が乱れ、また風波などコンディションの影響を受け、真っ直ぐ進ませるにはやはりラダーを効果的に使うことが求められます。揺れやぶれを制御するためにラダーは絶対に必要で、それは艇を安定させ直進させるために使います。艇と一体になる操作感覚はCOXにとってとても重要です。

①ある程度の蛇行を許容して、艇速をなるべく殺さずラダー回数を減らすのか
②当て舵を駆使してラダー回数は多くなるが、ほぼ真っ直ぐレーン中央をキープして航行するのが漕手心理的にも良いのか
③ラダーをほとんど切らず漕手に指示してサイド強調や技術コールでコントロールするのか
この3つのうち本当にベストタイムを得るのはいずれなのか、検証が限りなく難しいところです。

しかし、基本的に漕手の立場としてはレーン中央で真っ直ぐ、という②を理想とするはずです。練習でもレースでも、②のレーン中央をキープしながら、を優先しつつ、③によって漕手の漕ぎを改善させ直進性を高める努力をするのが良いと思います。また、スパートのラスト100mでは①のようにしてさらに絶対切らない、というCOXもいるそうです。

私の考えるノーラダーの方法は、やはりサイド負けの際に、負けているサイド(必ずしも水中強度が原因ではありませんが)が頑張って強く漕ぐサイド強調、あるいは負けているサイドのみ「キャッチ一枚を強く」「前半から」「ドライブ一気に」といった感じで技術コールを工夫し直進性を高めます。
また、ノーワーク時は舵もあまり効かないので、レーン変更する際などは数本で隣に移れるサイド強調を必ず使っていました。

COX付き種目ならば、最低限、レーンをはみ出したりすることがないようにしたいですよね。ブイにぶつけるのも、ミスとして改善したいものです。実際、レースではブイをブレードではたくいわゆるブイパコ、そしてブイにブレードを引っかけて腹切り、などの致命的なミスになりかねませんので、レーンの端、ブイに寄ってしまうのは漕手心理だけでなく、リスクの上でもマイナスです。
ラダーワーク以外に、目標のとり方、コンディションの読みも必要です。河川でのオープンコースでレースを行う際は、最短のコース取りをする航路センスもCOXには求められます。
戸田コースでは、ブイも完備された真っ直ぐなレーンで日常的にトレーニングできますが、地方でレーンが常設されていないコースを本拠とするチームは、これらのラダーワークや直進性を鍛えるために、戸田やブイが張られたコースに合宿を行うことも必要かもしれませんね。日頃の練習で、直進性をいかに意識するかは、レースにおいてとても重要です。
女子エイト、ステアリング

前項で見てきたようなラダーテクニックを磨いて、真っ直ぐ最短、最速でクルーをゴールに導けるように舵をとっていきましょう!
そして、操舵によって安全、安定した航行が可能となります。艇の動揺にも敏感になり、これを制御してスピードに乗せましょう。優れたCOXは、優れたパイロットともいえるのです。

もしあなたがボート競技を知らない人に、「COXは何をしてるんですか?」と聞かれたら、こう答えてください。
「COXは船を操縦する役目をしています」「COXは、人の力で進めるボートを運転しているんです」と。
実際、COXとはアクセルとブレーキ、そしてハンドルを司って艇を自在に操縦するドライバー、パイロットなのですから。




いくつか、今回のテーマに関連した参考リンクを載せておきます。

序盤にボート競技特有の、艇の動揺に関する記述があります。ローリング、ピッチング、ヨーイング、サージング。そしてヒービング、スウェイング。図解になっているのが分かりやすいですね。COXや漕手は、こうした艇にマイナスの挙動を知識として、そして感覚で捉えられると役立ちます。PDF資料です。
「漕技レクチャー2004 漕艇物理学概論」

あまりCOXについての記述が少ない中、ラダー考察があります。T大のブログです。
ラダーを切るタイミングや、ちょっとしたコツなどCOX同士で意見交換や議論するのも良いかもしれません。
http://d.hatena.ne.jp/tsurui/20091110
http://d.hatena.ne.jp/tsurui/20100126

なしペアのラダー整備に関するおやじスカラーさんの記事です。漕手向けです。
http://d.hatena.ne.jp/oyajisculler/20080910/p2
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