前回は大学生男子を見てきました。

今回は引き続き一昨年(2014年度)の記録から、今度は高校生男子のエルゴ記録を見てみましょう。16~18歳では体重区分がありませんが、参加合計1532人の高校生男子選手がいる中で7'00を切っている選手は121人だけ。割合は大学の38%よりずっと少なく、重量級も全部含みますので、全体の実に1割に満たない狭き門です。

といっても、これもこういう統計にありがちなところで、以前から言うように高1、高2の記録がほとんどです。高1で早くも7分切れる漕手は本当にごく限られた素質の漕手でしょうし、高2くらいでもまだまだエルゴ2000mの記録は安定しなかったりするはずです。それから、高校生の部活ですから大学生で全員合宿に近い雰囲気や練習量でもありませんので、意識の差は激しいでしょう。高校生は成長期の真っ只中で、身体がまだまだできておらず多くは細いですからね。しかし高校トップレベルは皆大学と遜色ない、かなり鍛えられた身体をしています。

大体7'20を切れば真ん中より上、というのが高校全体のレベルのようですが、全国上位に行くには7'00をできれば切りたい、最低7分ひとケタくらいのめやすがあるでしょう。都道府県のレベル差も大きいので地域で基準も大きく異なるはずですね。やはり強豪高校は大学並みのとんでもない練習量を課しているでしょうから、上位がみな6分台みたいな、記録の平均がハイレベルな高校は練習への意識も普通のチームとは全然違うと思います。



続いて女子です。

〈19~29歳 女子軽量級(61.5kg以下)〉で8'00を切った大学生は188人中55人。〈19~29歳 女子重量級〉で8'00を切った大学生は45人中32人。大学女子全体では233人中87人が8'00を切っています。
ここから見て、女子で8分切れる大学生漕手は半数に満たない割合になります。

高校生女子の記録では、8'00切りは参加合計661人中76人。1割は超えているものの、やはり高校生にとってはかなり上位レベルという水準になります。8'20を切れる選手は212人で全体の3割ほどで、全国出場にはできればここは早めにクリアしたいものです。


私は個人的に日本の男女のタイム差は50秒だと考えていて、男子の7'00は女子の7'50に相当するとみなしています。世界では40秒差くらいまで接近する場合があります。ただ、エルゴ記録の分布は、男子の7分と女子の8分がちょうど同じくらいの水準になっている現状がありますね。

こういう全体の記録分布を見ますと、全日本はともかく、インカレで男子7'00以内、女子8'00以内を完全に参加資格にしてしまうのはどうかなと個人的には疑問に思います。けっこう、出られる大学が減ってしまいます。インカレの参加クルー数が増えてスケジュール上の運営が大変だったり支障が出るケースがあるのは分かるのですが。
しかしながら、2016年からインカレでは「1X、2X、2-の種目で男子7'00、女子8'00の公式記録を出漕資格として参加申込すること」ということで、基準タイムをクリアすることが義務化されました。これにより、エルゴの重要性がますます高まったということが言えます。
もちろん、全体でレベルアップして男子全員が7'00、女子全員が8'00を切って全ての大学生がインカレに出てほしい。しかし、大学ボートの現状はこういう記録分布になっていますね。




エルゴがなかなか回らない人へ。

女子のエルゴについても、色々な選手の記録やトレーニングをこれまで見てきましたが、男子以上に出力できるパワーが個々に大きな差があり、強い力を出せない選手がかなりいます。男子のエルゴが回らない選手も同様なのですが、「力を出す」というトレーニングの徹底が必要です。インカレ上位になりたい人で、大学1年の終わり、3月までに8'30を切れない女子は要注意です。男子の7'30なども同じことがいえます。
このままの伸びでは上位は難しく、1年目にこれくらいでも4年までにインカレ上位をめざしたいなら、2年目か3年目に女子なら必ず8分切り、男子は7分切りの目標を掲げてほしいですね。大幅に伸びるタイミングが必ずやってきます。ひとケタに達すればもう射程圏内です。基本的には1に体重(筋量)、2に体力、3に技術。しかし最も大事なのは意識変革。
(それ以下の記録の大学生については、とにかくまず練習量と食事量を格段に増やしてください。男子60kg以下、女子50kg以下だと思われるので、もっと身体の大きさがほしいですし、練習の負荷と量が不足しているはずです)

また、力を出せないフォームになっていたりしています。いつかも言いましたが、フォームは単なる見た目ではなく意識と感覚の産物であり、また動きとしての漕姿です。
シートに座って腰が立ち脚の力と体重が使えていない、フォワードで後ろから体重を脚に乗せて両肩を前に伸ばすということができていない、腕・肩・脚を力んでいるだけ、上体をのめっているだけ、「体力」だけのせいにしてエルゴで数字が出る回し方をそもそも試行錯誤していない、その他フォームに関してだけでもたくさん課題があるはずです。

重さをかけてフライホイールを回す、その回転数や回転速度でエルゴでの距離が算出されます。一本のホイール回転数によってラップ表示が出ます。うまく回すには身体の重さを乗せてドライブで飛ばすようにする。股関節から脚に乗せてきた体重を使って、体幹をおもりのごとくハンドル(=エルゴの中のホイール)にぶらさがって長く飛ばしましょう。ハンドル以上に、ストレッチャーに体重が乗った状態で。

上体に頼っても数値は出せますが、しかし明らかに脚が使えた方が効率はいいし何より乗艇に生かせます。脚の筋出力で体重がストレッチャーに乗り続けるように、それが体幹を通じてハンドルに乗るように。基本は脚の曲げ伸ばし感覚を大事にしてください。膝関節ではありません、股関節からの伸展です。
回らない人は、変に足首、すね、ひざ、こういうところを無駄に力んでしまい、また下半身と上体の動きが分断しており、上体は上体で腕、肩、グリップ回りの指などが力んだりしがちです。こんなところは意識は無です。グリップに対して力んだら絶対にいい数値は出ません。腕と肩を張って固めたら体重が生きません。ボートだけではないですが、つながるときだけ受動的に使われる筋肉がほとんどなのです。自分の意識でつなげるのではありません。勝手につながります。脚回りの大きな筋が出力した際に使われるだけです。

身体の末端部は意識から度外視して(センサーとして感じることはする)、脚と体重感覚を大事にコントロールしてください。脚はももや股関節回りを意識的に操作して、膝周りは完全に力を抜いてラクに動くようにします。股関節から動くので、その先の脚や腕は道具なのです。出力する主役の部位ではありません。脱力して使われる部位です。



エルゴをもっと回したい方は、研究を重ねることをおすすめします。こういう動画でヒントを得てもいいと思います。
頭で考えないで、力強さを感じてイメージを表現してみてください。


エルゴ動画をいくつか集めました。 (その他、たくさんあると思うので技術的に良い動画を探してみてください)
ハイレートが多くなってしまいました。低レートでじっくり強く漕ぐフォームもあると良かったですが。


U選手・・・先日の全日本選手権で解説をされていましたね!
https://www.youtube.com/watch?v=zH40J_q2chc

近畿大会エリートクラス(T田選手 右下)
https://www.youtube.com/watch?v=G7UYrkKlUFw

Kiwi Pair(音がうるさいです)
https://www.youtube.com/watch?v=IOVmIrWZdWA

同じくハミッシュ・ボンド
https://www.youtube.com/watch?v=3pTUHd1iF1Q

ジェレミー・アズー フランス軽量級レコード達成時
(一番手前。このとき6'02"9、現在5'57"5の記録保持。彼はややエルゴ仕様の漕ぎですね)
https://www.youtube.com/watch?v=56APWoAiwL4

ウルスラ・グロブラー 女子軽量級世界レコード達成時
(手前から4人目の真ん中。白っぽいTシャツと黒地に赤白ラインのスパッツの選手のよう、6'54"7。出ている選手皆力強く、女子に欲しいパワフルさ。男子にも、キャッチの体重の乗せ方はとても参考にしやすいおすすめのフォーム、動き。手前隣の黒いロースー、紫ヘアバンドの選手ともども、シートなどに力が逃げず全て伝える技術の高さが、真ん中2人は際立っています)
https://www.youtube.com/watch?v=9ifGNmUi92M





基本は、今よりエルゴがどんどん伸びるようにしていきます。力が出せる漕姿を追求し、身体の性能をフィジカルでもテクニックでもメンタルでも高めていきます。
それでもエルゴがどうしても回らないときは、乗艇の技術でカバーです。

かつて、私のコーチ経験ではエルゴがそこまで回らなくても乗艇でテクニックや水中など色々な工夫をしてインカレで結果が出せたことがあります。

例えば、2002年のインカレM4-優勝の際は、エルゴ自己ベストが6'29、6'44、7'05、6'54という並びでした。
2番に64kgに届くかどうかの細身の選手がいてエルゴは7'05が最高でしたが、紛れもなく優勝メンバーです。彼は高いテクニックを持っていました。このクルーは全員4年生で技術イメージや相性が合っており、艇を進めるイメージはかなり揃っていて練習では優勝にふさわしいタイムを出していたという前提がありましたし、決勝は最高の展開で決めることができたので、7分切っていなくても優勝はできるんだということが言いたいわけではありません。冬のエルゴよりも夏のトレーニングとレース効果で最大5秒くらいは伸びているものでしょうし、そもそもエルゴより乗艇やレースの方が力が出せるタイプの選手もなかにはいます。逆もいます。
今はインカレのレベルが当時よりずっと高くなっているので、このエルゴで今は当然勝てないでしょう。今だったらストペア2人に10秒、バウペア2人に最低20秒短縮を要求したいですね(笑)。
2015年のインカレM4-優勝クルーは、エルゴに大きな差はなく平均が6'30に近かったです。そしてさらに2016年の全日本M4-優勝クルーは、平均6'25に到達していたと思います。
とはいえ、エルゴがすべてではありません。もちろんエルゴを重視しますが、エルゴが回らなくても他に回る選手がメンバーにいてクルーとして艇を進めていれば補うこともできるということです。大事なのはクルーとしての艇速です。

また、2009年にはやはりインカレM4-で7位でしたが、エルゴの当時のベストは平均が6'55にも届かなかったと思います。細身のリーダーが7'10をずっと切れず苦労して、4年生の最後のシーズンで7'03のベストを出しました。私の記憶では7'07だったのですが本人は7'03と言っておりましたので自己申告を採用したいです(笑)。ストペア2人がこのシーズンは6'51と54くらいだったと思います。
他チームでもエルゴがいいわけではなかったが素晴らしい結果を収めた例はたくさんあると思います。


ただし今は当時よりも各種目でインカレのレベルアップが著しいので、エルゴが足りないとなかなか結果が出せなくなっていると感じています。しかし、エルゴが全てを決めるわけではないし、冬場のエルゴ以上に夏場のトレーニングと仕上げ方で逆転が可能であります。何だかんだ、インカレでは夏に仕上げるのがうまい大学が活躍する印象を昔から持っています。
男子7分以内、女子8分以内が出漕資格になるとこうした選手が最後まで出漕できなくなってしまうので、エルゴが若干足りなくてもインカレ出漕できるままでいてほしいとは思っています。

大学ボート全体を見てみると、エルゴは中間層の記録が少しずつ上がっていて、それがインカレのレベル向上になっていると最近の記事でも申し上げました。
それでも、私が大学から始めた選手に必ず言う言葉が、「インカレ順位決定なら誰でも行けるよ。正しいトレーニングをしっかり行えば、素質は問題ではない。インカレ決勝は素質が影響してくるが、その素質も体格面より精神面がより大事」

要するに、本気になれば男子7分女子8分は誰でも切れるし、誰でもインカレ最終日に進めるポテンシャルがあるということです。
いや、これも私の壁かもしれなくて、「誰でも男子6'40切れる、女子7'30切れる、誰でもインカレ優勝できるよ」と言えるようになりたいですね。
そのためには何度も言いますが、トレーニングと意識が重要だということです。
2015 エルゴ追い込みトレーニング





さて、色々な記録や例を見てきました。エルゴ記録にもレベルがさまざまだということです。
そうして見るときに、「7分の壁、8分の壁」というものは、実のところ「意識の壁」なのだと結論づけることができるかもしれません。
自分のチームでも時代によって変わるものだし、日本のナショナルチームでは「6分10秒の壁、7分の壁」と言われているかもしれないですよね。女子は7分を破っているので、男子はここを高い目標で破っていただきたいです。
そのように、もう少し高いところに目線を上げて目標を高めれば、今までの壁は消えてもう少し高いところに設定できるかもしれない。

面白いと思います。あるチームでは、部員全員が男子7分、女子8分切っている。あるチームでは、部員の中で1人も男子7分、女子8分が切れない。元々の最初の素質を見ると、どちらの部員も大差があるように見えない。こういうのが意識の差、チームの差なのだと。人の意識や常識が、可能と不可能を決めているのだと。
こういう意識と可能であるレベルが高まって、当然のレベルが上がっていき、日本でも「トップ選手で男子6分切れるの当たり前、女子6分40切れるの当たり前」という国になっていったらと思います。



トップ選手、上位レベル、ビギナーや初心者、ファン層、などどんなレベルの方でもそうですが、常にトップの動向や考え方に関心を持っていただきたいと思います。その上で、どのレベルでもトップになりたいと思えばそこがスタートであり、意識改革とトレーニング改革に努めること。
そして、その意識を変えるためには知識や情報、人材を得ることですね。人材とはコーチや他チームの知人、自分よりボートを知る人だったり、さまざまですね。意識レベルを高めてくれる世界に接することです。

そしてそれと同時に、自分のレベルが絶対とみなさず、特に自分より数値目標が低い人を見下してはいけない。それはいつも言う弱い心です。自分はいつも謙虚に、上を目指せばいい。あらゆるレベルで競技に関わる1人1人を尊重してほしいです。トップ選手や上位クラスの人こそ、初心者やファンなど、多くの人のことを大事にしてほしいですね。自分にとっての大事な目標は、それぞれ人の数だけ存在します。

同じチームの仲間であったならば、高い目標を共有する工夫やはたらきかけをします。目標や基準値というのは、限りなく高いレベルまで設定することが可能です。クリアしたら、また次はもう少し高くにハードルを設定すればいい。そのそれぞれの目標やボートに求める目的などを、ぜひとも尊重しながらも、ともにめざす場所が1つになれたら素晴らしいですね。全員で壁を越えていきたいのです。
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